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誕生日の奇跡113

愛未は持っていたケーキを
テーブルの中央に置き、
ロウソクに火を点ける。

すべての火が揺らめいた所で
優太くんが明りを消した。

先輩(?)の「せーのっっ!」の掛け声で
誕生日を祝う歌が始まる…。




Happy birthday to you,
Happy birthday to you,
Happy birthday, dear YOKO,
Happy birthday to you.




「さぁ!洋子ママっっ!
 ロウソク吹き消してっっ!!!」

「う、うん。」


お母さんは
すぅと息を吸い込み、
年の数より少なく立てられているロウソクを
一気に吹き消した。


「洋子ママ、誕生日おめでとう!」

「お母さん、おめでとうございます!」

「洋子さん、ハッピーバースデー!」


暗闇の中で次々と聞こえる
お祝いの言葉と大きな拍手。


「あ、ありがとう。」


その言葉をタイミングに、
店内に明るさが戻る。

そして私たちが見たものは、
涙と笑顔でぐしゃぐしゃになった
お母さんだった。




「ホントにビックリで…、
 何をどう言っていいのか…。
 でも…嬉しい。
 ありがとう、愛未ちゃん。」

「ううん。
 こちらこそ、いつも何かとありがとう!」

「ありがとう、優太くん。」

「いえ。
 また、美味しいオムライスをお願いします。」

「ありがとう、桃。
 って、あんたが泣いてどうすんの(笑)」

「だ、だってぇ。お母さんが泣くからぁ。」

「ばかねぇ(笑)」


お母さんを中心に
和やかな笑いが包んだ。

ただひとりを除いて…。




「あ、あのっっ…(汗)」


両手をブンブン振り、
猛アピールをする…


「その声は、海くん…よね?」

「はいっっ!新田海ですっっ!!!」

「どうして…」


長いお耳の…


「ソレなの?」


ウサギさん(キグルミ)を除いて…。


 ぽちりに感謝カンゲキ雨嵐<(_ _*)>



 

誕生日の奇跡112

来てくれんだっっ!


急いで店内を見回したけれど、
優太くんどころか、
先輩の姿も
愛未の姿も見えない…。


隠れてるのかな?


声を出すわけにもいかず、
どうしたもんかと携帯に目をやると、
新たなメールが…。




『さぁ、桃ちゃん。楽しいパーティーを始めよう!』




私は携帯に向かってコクンと頷き、
主役を招き入れる為に外に出た。




「見つかったの?」

「ううん、まだ。
 中で一緒に探してもらっていい?」

「いいけど。
 だから一体何なのよ、忘れ物って。」

「それはね…」




扉を思いっきり開け、
お母さんの背中をグイッと押す。


「えっっ!?」


よろけながら(ごめんね!)
入ってきたお母さんを待っていたのは、


「「「ハッピーバースデー!!!」」」


私の大切な
3人の友達だった。




バースデーケーキを持った愛未の横で、
クラッカーを鳴らす先輩(?)と優太くん。

飛び出した色とりどりの紙が宙に舞い、
ゆっくりと落ちていった。


「え!?なにっっ!?誰のっっ?」

「誰のって洋子ママのに決まってんじゃん(笑)」


愛未のツッコミに笑いが起きる中、
当の本人だけはぽかんと口を開けたまま。


「お母さん。」

「…。」


私の声も聞こえてないみたい。


「サプライズ過ぎたかな?」


優太くんの言葉に
後の2人も心配げにお母さんをみつめる。


考えてみると、
お互いの誕生日はずっとふたりきりだった。

こんなサプライズは
お母さんも私もはじめての体験。


そりゃあ、びっくりするよね?

でも、嬉しいんだよね?


私はその両手を取り、
柔らかく握りしめる。


少し荒れた、“おかあさん”の手。

私の大好きな優しい手。




ありがとう。

ありがとう、お母さん。




「お誕生日おめでとう。」




ありったけの気持ちを込めて、
お祝いの言葉を伝えた。


 ぽちりに感謝カンゲキ雨嵐<(_ _*)>



誕生日の奇跡111

「お母さん。
 私、夕べ、ここに忘れ物しちゃってたの。
 取って来たいから鍵貸して。」

「忘れ物?そんなのあったかしら。
 何、忘れたの?」

「え!?あの…」

「大体、桃、あんた鍵は?
 いつも家の鍵と一緒に持ってるでしょ?」

「い、いいからっっ!早くぅーーー!!!(汗)」




愛未たちと約束した時間との誤差は10分。

お母さんとのデートを楽しみ過ぎて、
ちょっぴり遅れてしまった。




定休日の札が下がるママの店の前で、
半ば無理やり鍵を貰って中へ…。




薄暗い店内に入り、明りを点けると、
見事なパーティーの準備が出来ていて、
思わず上げそうになった感嘆の声を
はぐっと両手で押さえた。

カウンターの上には
“洋子さん誕生日おめでとう!”
と書かれた横断幕。


(これは、先輩ね。)


頭上を見上げると、
金色のくす玉。


(これは、絶対愛未!)


そして、テーブルには
美味しそうな料理の数々…。


(これは…)


喜びに胸が震えた時、
バッグの中の携帯も震える。


『桃ちゃん、準備完了だよ。』


それは、
待ちに待った優太くんからのメールだった。


 ぽちりに感謝カンゲキ雨嵐<(_ _*)>



誕生日の奇跡110

おとう…さん?

お父さんって言った?


ビックリした。

お母さんの口から
その5文字が出るなんて。

それも、いつも話してるかのように自然に…。


目をまんまるくした私は気に留めず、
“お父さん”の話は続く。


「実はね、さっきの動物園。
 あそこが出会いの場所なの。
 最初のデートもあの動物園だったなぁ。」


ほんのり頬を染め、
嬉しそうに話す姿は少女のよう…。


「お金も無かったしね。
 安くつくでしょ?動物園デートって。
 だから、いつも…。

 閉園時間になっても別れがたくて、
 この道を何駅分も歩いたのよ。
 なんでもないおしゃべりをしながらね。」


名前も顔も知らないお父さん…。

こんなに長く話を聞くのは初めてで、
自分の中に吸収されずに困惑する。

嬉しいには違いないのに…。


「驚いた?
 急にお父さんのことを聞かされて。」

「う…ん。」

「今日はね、特別。
 というか…解禁?」

「解禁?」

「決めてたのよ。
 桃が恋をして、
 人を愛することを知ったら、
 あの人のことを話そうってね。」

「愛する…。」

「ん?愛してないの?」

「わからないよ、そんなの。」

「そう。じゃあ、お父さんの話もここまで。」

「えーーー!」

「えーって、困った顔して聞いてたくせに(笑)」

「だって、いきなりだったからっっ!
 もっと、聞きたいよ、お父さんのこと!!!
 名前…、そうだ、名前は?」

「それは…内緒。」

「ど、どうして!?」

「まだその時じゃないから…かな。」

「…。」


突然、父親の話を言い出して、
肝心の名前を教えてくれないって…。


「なんか…イジワル。」

「はい?」

「お母さんのイジワル…。」


こんなこと、言いたいわけじゃない。

俯いて、唇を噛む。

ずっと聞きたかったお父さんの話を
少しでも聞けたんだし、
今日はお母さんの誕生日だし…。

でも・・・、
やっと射しこんだ光を
体いっぱい浴びたかった。

乾ききっていた“父親の情報”を
思いっきり満たしたかった。

人間はどこまでも贅沢に出来ている。


「ごめんね、桃。
 今までも、これからも。」

「違う!
 謝って欲しいんじゃないの!!!
 ただ…」


聞きたいだけなの。




お母さんは
寒くも無いのに鼻が赤い私から
腕を解き、
ぎゅっと肩を抱いた。

そして、
頭をコツンとくっつけてこう言う。


「時が来たら、全部話す。
 それは、そんなに遠い未来じゃないから。」


納得はしてなかったけれど、
お母さんの声がとても悲しそうだったから、
それ以上の質問は飲み込んだ。




気が付けば、
ふた駅目もとっくに越していて、
紫陽花の道連れもかなり前に途切れている。

お母さんは私の波立った気持ちを鎮めるように
もうひとつだけ言葉をくれた。


「お父さんとお母さんは
 お互いに出会うことで初めて
 人を愛する意味を知ったの。
 その証があなた。
 桃は
 私とあの人の愛、そのものなのよ。」


涙が溢れ、
お母さんの服を濡らす。


愛、そのもの…

なんて幸せな言葉だろう。


「歩こ、お母さん。」


涙を拭いて、また腕を組む。


帰りは電車、
必要なかったね。


 ぽちりに感謝カンゲキ雨嵐<(_ _*)>


誕生日の奇跡109

「良いご夫婦だったわね。」

「うん。」


さっきの場所にはまだ
花を愛でている老夫婦の姿がある。


もう少し、話していたい…。


不思議とそんな気持ちになった。


「また、会いたいな。」

「そうね。お母さんも。」


この紫陽花ロードには
どんな物語が隠されているんだろう。

きっと何か
大切な想いが込められてるに違いない。

だからこそ、一輪一輪
こんなにキレイに咲いてるんだ…。




紫陽花を道連れに歩く道程。

美しい景色は人を素直にさせる。

それが優しい人によって、
もたらされたものなら尚更…。

素直にさせられたのは私。

そして、お母さん。




「桃。その彼はステキな人なの?」

「…うん。
 一見怖そうに見えるんだけど、
 ホントはすごく優しくて…。
 とってもステキな人。」

「そう。」

「でも、片想いなの。
 私には手が届かない…遠い人なの。」

「いいのよ、片想いでも。
 大切にしなさい。今の気持ちを。」

「うん。」




話が途切れる。

でも、息苦しい間じゃない。

言葉は無くても、伝わるものがある。

家族なんだなと思う。




「じゃあ、今度はお母さんの番ね。」


再びお母さんが話し出す。

その話に、今まで凪いでいた心が
波立つのを感じた。

それは19年間、
私たち親子が避けていた話だったから…。




「この道ね。
 桃のお父さんとも歩いたのよ。
 何度も、何度も…。」

「え!?」


 ぽちりに感謝カンゲキ雨嵐<(_ _*)>



誕生日の奇跡108

「天気も良いし、ひと駅歩こっか?」


お母さんの提案で
腕を組んだまま次の駅まで歩いた。

5時。

まだまだ明るい。

夕方と言うには不釣り合いなぐらい…。


「もう夏ねぇ…。」

「うん…。」


歩調を合わせてゆっくり歩くうちに、
少しずつ気持ちが落ち着いてゆく。


恋って言っても片想い。

結婚なんて、夢のまた夢。

だから、
もうちょっと子供のままでいさせて…。








「わぁ…。ここ、すごいねぇ。」

「ホント!こんなところあったっけ?」


線路沿いに
突然現れた紫陽花の群れ。

その始点には控えめな立て札が…。


「紫陽花ロード?」


見渡すとかなり先まで続いている。


「ステキなネーミングねぇ♪」

「ありがとうございます。」

「「えっっ!」」


突然、背後からお礼を言われ、
驚いて振り向くと、
穏やかに微笑む老夫婦が立っていた。

その腕も私たちのように組まれている。




「驚かせちゃってごめんなさい。
 お褒めの言葉が嬉しくてつい(笑)」

「すみませんねぇ。
 これが考えたんです、その紫陽花ロードって名前。
 私はあじさいの道でいいんじゃないか?って
 言ったんですけどね。
 どうしてもってきかなくて。」

「おふたりが植えられたんですか?」

「ええ。そうなの。
 ちょっとずつコツコツとね。」

「動物園前の駅まで植えるのが目標でね。」


そう言って、老夫婦は顔を見合せて笑う。

それを見て、私たちも笑う。

紫陽花が運んでくれた小さな出会いだった。


 ぽちりに感謝カンゲキ雨嵐<(_ _*)>



誕生日の奇跡107

―ご来園ありがとうございました―


そう書かれたゲートを抜け、園外に出る。

私たちが最後の客だったようで、
職員がゆっくりゲートを閉じた。

お母さんは感慨深げにその様子を見つめている。


「どうかした?」

「ねーえ、桃…。」

「ん?」

「好きな人出来た?」

「え!?」


聞き間違いなのかと思うほど
さらりと出た言葉に
明らかに動揺した。

それなのにお母さんは
相変わらず動物園の入り口を見たまま…。


「な、なによ!いきなり!」

「ふふ。図星?」


更なる質問に備えて身構えていると、


「行こっか。」


と、私を見て優しく笑った。




最寄りの駅に向かって歩き出す母親に
ドキドキしながら付いてゆく。


愛未にも、海先輩にも、
そしてお母さんにも、
秘めた想いを見透かされてる。

どうしてだろ?

私ってわかりやすい?


信号待ちで立ち止まった途端、
お母さんが顔を覗き込んできた。


「なーに難しい顔してんの?」

「あのさぁ…」

「ん?」

「どうしてわかったの?」


ああ…、今きっと顔が赤いなぁ。


頬の熱さに自分の表情を自覚する。

恋を認めたことになる質問…。

それにお母さんが答える前に
信号が青に変わった。




長い髪を揺らし、
颯爽と足を運ぶ背中を追って
信号を渡る。

横断歩道の白い線が
6月の日差しに反射して
柔らかく光っていた。

半分まで渡ったところで、
ふいにお母さんが腕を絡める。

そして、
残りの半分を歩きながら
こう言った。


「桃、最近きれいになった。
 きれいになって、
 ちょっぴり大人になった。
 原因は恋かなぁって…。

 親としては
 嬉しくもあり、淋しくもある。
 恋は親離れの第一歩だからね。
 だから、ちょっぴり複雑。」

「そんな…。」


どうして今日、動物園だったのか…。

なんとなくわかった気がして
きゅんと切なくなった。

私は腕にぎゅっと力を込め、


「やだ!
 しないもん、親離れなんて!
 ずっと…、
 ずっと側にいるもん!!!」


と、訴えた。

無理なことだと
わかっていながら…。




横断歩道はとっくに渡りきり、
シグナルは赤に変わっている。

駅はもう目の前。

…胸が、痛い。


 ぽちりに感謝カンゲキ雨嵐<(_ _*)>



誕生日の奇跡106

園内にホタルノヒカリが流れ出した。

それは閉園15分前を知らせるメロディー。


「やっぱりちょっと淋しいな…。」


餌やり風景を見ながら、ぽつりとつぶやいた。


「じゃあ、
 あそこ寄って帰ろっか?」

「あそこ?」

「そう、あそこ♪」




それは、売店に併設されたソフトクリーム屋さん。


「うわっっ!懐かしいっっ!!!」

「でしょ?」


そうだ。

ここは、
淋しくて泣きべそをかいた私が
いつも最後に連れて来られた場所。


「おばちゃん、いるーーー?」


お母さんは小さな店内に声をかけた。

すると、
後ろ向いて作業していた店員さんが、
手を拭きながら振り向く。



「あら?あんたぁ、随分久しぶりだねぇ!」


と、笑顔を向ける女性。

皺も白髪も増えてはいるけど、
その温かい笑顔に記憶があった。


「今日は泣いてないんだね(笑)」


私を見て、笑顔を濃くする。


「私のこと、覚えてるんですか?」


小さい動物園といっても、
けっこうな来園者があるはず。

その中で
何年も来ていない私の顔を覚えてるなんて…。


「覚えてるさぁ。はっきりとね。
 それに…」


そこまで言って一旦背を向け、
次に振り向いた時には、


「あ!抹茶ソフト!!!」


私が大好きな抹茶味のソフトクリームを
両手に持っていた。




ひと口頬張ると、
甘く懐かしい味が広がる。


「おいし♪」

「そうだろ?
 あの頃と何にも変えちゃいないよ。

 あんた、これ食べると笑ってくれてね。
 その顔がすっごく可愛くて…。
 鼻を真っ赤にしたまま、にこって笑うんだ。
 嬉しかったねぇ。
 だから、覚えてる。
 あんたたち親子のこと…。

 あんたも、頑張ったんだね。
 この子をここまで大きくして…。」


最後のひと言はお母さんに向けたもの。

それを聞いたお母さんは、
何にも言わず微笑みを返す。




おばさんと緑色をした冷たい食べ物は
私たち親子にステキなプレゼントをくれた。

遠い昔の記憶と
甘さとほろ苦さ…。

そして、


「はい、チーーーズ!」


おばさんに撮ってもらった親子の写真。

ふたりの手には
コーン部分しか残っていない
抹茶ソフトが握られていた。


 ぽちりに感謝カンゲキ雨嵐<(_ _*)>



誕生日の奇跡105

お昼もとっくに過ぎた時間。

出口に向かう家族連れや
ベンチに座って
会話を楽しむだけのカップルの姿も…。


「お母さん、動物園に来たかったんなら、
 もっと早く家出れば良かったね。」


のんびり見てたら、
最後の動物にたどり着くまでに
閉園してしまいそう。


「いいの、いいの。
 この時間帯がいいのよ。」


そうだった。

お母さんは昔から
閉園間際に行われる
“餌やり”を見るのが好きだったんだ。

でも、私は苦手。

動物たちは夕飯を楽しんでるけど、
お客さんがいない動物園はどこか淋しくて、
休日が終わってしまう切なさに拍車をかける。

小さい頃は
園内にホタルノヒカリが流れると
目に涙をいっぱい溜めて、


「早く帰ろうよぉ…。」


と、お母さんの洋服を必死に引っぱった。


明日からまた
お母さんと一緒に夜を過ごせない。

誰も待ってない家に帰って、
テレビに向かってご飯を食べるんだ…。


そう思うと、悲しかった。




いつからだろう。
そんなに悲しくなくなったのは…。

いつからだろう。
月曜日が待ち遠しくなったのは…。

いつからだろう。
お母さんと動物園に来なくなったのは…。




動物たちを忙しなく見ながら、
少女のようにはしゃぐお母さん。


「餌やり、早く始まるといいね。」


そう言った私の言葉に、
嬉しそうに笑った。


 ぽちりに感謝カンゲキ雨嵐<(_ _*)>



誕生日の奇跡104

「ねぇ、お母さん。
 天気も良いし、どこか出かけない?」


片付けが終わったところで、
新聞を読んでいたお母さんに声をかけた。

計画では、

ショッピングか映画に行った後、
忘れ物をしたからとママの店に寄り、
そこで待ち構えてくれてる3人と
サプライズパーティーを開始する!

予定なんだけどぉ…


「今日はまったりでもいいかなぁ。
 このまま、ゴロゴロしたいかも。」


ま、まずいっっ!

上手く連れ出さないと計画がっっ!!!


「お、お母さん、そう言わずに。
 せっかくの誕生日なんだし、
 娘と水入らずで映画でも見に行かない?」

「映画?
 天気関係ないじゃない。」


しまった!

導入部分間違えちゃった!


「だったら、買い物行こっっ!
 先月出来たショッピングモールは?
 すっごい、大きくてキレイらしいよ。」

「それも屋内ねぇ。」

「…そ、そうだね(涙)」


あーーーん!どうしようーーー!!!

みんなが一生懸命準備してくれたサプライズが
私のせいでダメになっちゃうっっ!!!

そう思うと、
自分が情けなくて泣きたくなった。


「なぁにー?半べそなんかかいてぇ。」

「だってぇ…」

「わかった、わかった。
 その年になって親と出かけたいなんて、
 まだまだお子ちゃまね、桃は(笑)」

 じゃあ…」




「桃!見て!
 ペンギンかーーーっわいぃーーー♪」


お母さんのリクエスト先は
たいして大きくもキレイでもない
地元の動物園だった。


 ぽちりに感謝カンゲキ雨嵐<(_ _*)>



誕生日の奇跡103

「桃。気持ちはわかるよ。
 でもね、この噂は消えたの。
 だから、もうこれで終わり。」


愛未が強めに私に言う。

だけど、心に残った疑問ともやもや…。


「桃ちゃん、今度の顔は
 聞きたいことがあるって顔かな?」


先輩にずばり指摘され(なぜ?)
こうなったらっっ!と疑問をぶつけた。


「あのね。
 どうして、私なの?
 優太くんと仲良くしてる人は他にもいるのに。」

「それは、優太が好きなのは桃だから。」

「え!?
 だって、それは…。」


そうかも知れないって思う場面はあったけど、
優太くんにはっきり言われたことはない。

あくまでも付き合い方は“仲のいいお友達”のはず。


「まだ、認めてないの?
 桃だけだよ、そんなの。
 昨日の情報メールにもあったでしょ?
 プードルの心はピーチ姫にあるって。
 周知の事実なの。もはや、それは。」


ピーチ姫…?

そう言えば、メールにあったような…。


「あれって、私のことだったの?」

「ええっっ!?今さら、そこっっ!?」

「海…。言わないでやって。
 こういうコなの、桃は。

 だからさ、あんたが邪魔だったのよ。
 その噂を流したヤツにとっては。」

「だ、誰が流したか知ってるの!?」

「…ひとりしかいないでしょ?」

「だ、だれっっ!?」

「富田はるか。」


そ、そっか。そうだよね。

冷静に考えると。


「ねぇ、愛未?」

「何?まだ何か聞きたいの?」

「その噂、みんな信じちゃったのかな?
 私、そういう目で見られてたの?」

「…100%信じたわけじゃない。
 みんなにとっては、
 週刊誌のゴシップ記事みたいな感覚なんじゃない?
 大半の嘘の中にちょっとだけ真実が混じってる。
 だから逆に、100%否定も出来なかった。
 特に病理学を選択してる生徒の中には
 桃を元から良く思ってない者もいたからね。
 ああいう事になっちゃったんだよ。
 でも今は噂も治まった。
 どうしてだと思う?」

「…?」

「みんな、
 桃ちゃんが良いコだって知ってるからだよ。」

「それに、優太のこともね。
 誰にでも優しい優太。
 救われた生徒はたくさんいる。
 だから、簡単に噂は鎮火した。
 私がしたのは、その手助け。
 ほっといても治まることはわかってたけど、
 待ってられなかったの、気が短いから(笑)」


愛未の最後のひと言に
思わず笑みが漏れる。


「落ち着いた?」

「うん。
 色々、ありがと。
 先輩も、嫌なこと言わせてごめんなさい。」

「いいさ。
 桃ちゃんの笑顔が見れるなら。」

「ぷーーーーーっっ!!!
 海、そのセリフ臭すぎっっ!
 昼ドラ以下っっ!」

「だから、そういう言い方は
 昼ドラに失礼だろっっ!
 …っていうか、
 俺に失礼だっっ!」

「先輩、愛未!
 面白過ぎっっ!!!」


声を上げて笑った。

思いっきり。

それを見た2人はピタリと動きを止め、
一瞬ホッとしたような表情を浮かべた。

そして、再びバトル開始…。

目の前で繰り広げられる
笑いを誘う掛け合い。

それは、
もっと笑ってと言われてる様…。


笑い過ぎて、
お腹が痛いよ。


笑い過ぎて、
…涙が出る。


 ぽちりに感謝カンゲキ雨嵐<(_ _*)>



誕生日の奇跡102

頭の中に
有名すぎるあの曲が流れる。

ダースベイターの登場曲。

あれ、なんていう曲なんだろう。

ダースベイダーのテーマ?

それとも…


「ちょっと、桃!
 自分から聞いといて、
 ぼーーーっとするってっっ!?」

「え?ぼーっとしちゃってたの?
 ショックで固まってるんじゃないの?」

「いや。
 この顔は違う事を考えて
 ぼーっとしてる顔。」

「そうなんだ…。
 桃ちゃん、大物だね。」

「ご、ごめんなさい。
 もう一度お願いします。」

「はぁ…。
 もう一度言うのヤなんだけど。
 言ってて、凹むんだよねぇ。
 海、あんた言ってよ。」

「え!?俺!?」

「頼むわ。」

「…仕方ないなぁ。
 じゃあ、俺が話すね。」

「はい!お願いします!」


先輩は大きく深呼吸をして、
話し出した。




「桃ちゃん、君はね。
 優太とあの女の仲を邪魔する
 サイテーな奴ってことになってるんだよ。」

「そ、そんなことっっ!」

「もちろん噂さ。
 しかも、誰かが故意に流したね。
 だから、深く考えずに聞いて。
 いいかい?」

「は、い…。」

「まず、
 あの女を好きになったのは優太の方で、
 猛烈なアプローチの末に
 めでたく結ばれた…らしい。

 くそっっ!
 んなわけないだろうがっっ!!!(怒)」


先輩は悔しそうに、かぶりを振った。


「かーい。」


愛未が宥めるように名前を呼ぶ。


「あんたが熱くなってどうすんの。
 人には深く考えずにって言っといて。」

「…だね。
 うん、そうだ。さらっと流そう。」


先輩は自分を鼓舞するように
両手で頬をぱんぱんっと叩いた。




「というわけで、
 優太と女は付き合い始めた。
 が、以前から優太を狙い、
 何かとまとわり付いていたある女性が
 2人の中を引き裂こうと画策してきた。」

「もしかして…」

「そう。
 そのある女性とは、…君。」

「…わたし?」


悲しそうな表情で
先輩は「うん。」と頷いた。


「君はね、数々の嫌がらせをした結果、
 2人の絆が深いことを知ると最終手段に出るんだ。
 女の父親に娘が妊娠したと密告をする。
 その結果、父親に責められた女は自殺を図る。
 それを優太が救って、父親が感謝。
 そして、婚約…。」

「昼ドラかっつーーーの!」

「いや、愛未。
 その意見は昼ドラに失礼だ。
 こんなチープな内容、昼ドラにもあり得ない。

 清純そうに見える桃ちゃんは実は淫乱だとか。
 キャバクラでバイトしてるとか。
 馬鹿馬鹿しいにもほどがある!

 って…、桃ちゃん?
 また、ぼーっとしてるの?」

「ううん。これはショックで固まってるの。」


愛未の言うとおり、
その時の私は、
指先ひとつ動かせないぐらい
ショックを受けていた。


 ぽちりに感謝カンゲキ雨嵐<(_ _*)>



誕生日の奇跡101

「あーーーー、言いたくないっっ!」

「俺も聞かせたくない…。」

「先輩も知ってるんですか?」

「ああ…、うん。」

「噂ってのはね、
 本人の耳には一番入ってこないもんなのよ。」

「じゃあ、私だけ知らないの?」

「と、優太ね。」

「…。」


昼休み、
人がいない場所でってことで
写真部の部室に来ていた。


「知りたい…。
 守ってもらって自分だけ知らないなんて、
 なんかやだ。」

「どうしても?」

「どうしても。」

「桃にしては、引かないねぇ…。
 仕方ないか、治まった噂だし。」

「桃ちゃん、泣くなよ。」

「いや、無理でしょ。」

「…やっぱり?」

「あ…の、そ、そんなに、酷いの?」

「「うん。」」




お昼ご飯はカフェに行き、
超特急で済ませた。

それも全部、私の要望。

3人分のキャラメルラテをテイクアウトして、
2人を無理やり部室に引っぱり込む。

夕べ、先生と話して、
ひとつの結論を出して、
ちょっとだけ強くなった気がしてたんだと思う。

噂の真相を知るまでは…。




「まず、発端は優太。
 優太があの女、
 富田はるかの相談に乗ったことから始まってる。
 それは、話したよね?」

「うん。」

「優太の噂はさ、
 医学部の学生から、劇的に富田はるかを奪い、
 その結果、妊娠、婚約っていう
 比較的良い方向の噂なんだよね。」

「良い方向ってなんだよ(怒)」

「だってそうじゃん。桃のに比べたら。」

「まぁ、そうだけど…。」

「?」

「優太が学校に来られないのは、
 富田はるかの父親が激怒してるせいらしくて、
 噂自体は悪くないのよね。
 と言っても、優太にとっては迷惑な噂だけど。」

「そ、それで、私のは?」

「桃の?
 …やっぱり聞く?」

「愛未、しつこいっっ!」

「おおっっ!桃ちゃんの怒った顔、初めて見た!」

「先輩、茶化さないでっっ!」

「す、すいません…。」

「わかった、わかった。
 じゃあ、言うよ。」

「うん。…っと、ちょっと待って(汗)」


衝撃に備えて
冷めかけたラテをひと口飲む。

この甘さが緩和剤になるように味を記憶した。

…無駄だったけど。




「桃はさ、
 シンデレラで言うと
 意地悪な継母もしくはその娘で、
 白雪姫で言うと美しさを妬む王妃で、
 スターウォーズで言うと
 ダースベイダーなのよ。」

「愛未、その比喩は微妙じゃないかな?」

「そう?絶妙じゃない?」

「つまり私は…」


かなりの悪者になってるってことなんだぁ(涙)


 ぽちりに感謝カンゲキ雨嵐<(_ _*)>



誕生日の奇跡100

「美味しかったよ、桃ちゃん。
 お母さん、誕生日にお騒がせしました。」

「じゃあね、桃。
 洋子ママ、良いバースデーを!」

「海くん、愛未ちゃん、どうもありがとう。
 また、遊びに来てね。」


トマトカルボナーラを平らげた2人は
1時過ぎに帰っていった。

正確には、
“準備しにいった”なんだけど。




お母さんが起きてくるまでの間、
何度も優太くんのことが話題に上った。

誰も優太くんとは連絡とれないまま…。

それでも、
“会えないかも”なんて、
絶対に口にしなかった。

逆に、


「優太、何作る気だろうな。」

「桃、優太の料理の腕はどうなの?」

「すっごい上手だよ。
 手際も良いし、今すぐにでもお店開けると思う。」

「へぇ、そうなんだぁ。
 じゃあ、お腹空かせとかないとね。
 お昼食べたら、走ってこようかな。」

「どんだけ、食う気だよ。」

「あるだけ。」


なんて、
普通にこの後の話をしてる。

結局、
優太くんを救う具体的な方法は
見つからなかったというのに…。




学校で私を苦しめた“噂”は
愛未が消してくれた…んだと思う。

微妙な言い方になっちゃうのは、
どうやったのかを知らないから。




金曜日、学校に行くと
好奇の目と
噂話はすっかり鳴りを潜めていた。

いつも通りの朝に首を傾げていると、


「どぉ?静かになったでしょ?」


と、水聖(みさと)ちゃん。


「桃ちゃん、良い友達を持ってるね。」

「え?」

「愛未さんのこと。」

「愛未?」

「うん。」


そう言った水聖ちゃんの意味深な笑いに
ますます首が傾く。


「ごめんね。不思議だよね。」

「うん。」

「詳しくは教えられないの。
 でも、このクラスのことは私に任せて。」

「う…ん。よくわからないけど、ありがとう。」


それが、金曜の朝の出来事。

そして、そのお昼休み。

愛未はやっぱり
噂除去の方法は教えてくれなかったけど、
その代わり、噂の内容だけは教えてくれた。

とっても渋々に…。

それを聞いた私は、
愛未が言いたがらなかった訳を
嫌というほど知ることになる…。


 ぽちりに感謝カンゲキ雨嵐<(_ _*)>



誕生日の奇跡99

朝食を終えた後、
そのまままったりとテレビを見る3人。


「先輩、お昼も食べていきますか?」

「え?いいの?」

「いいに決まってんじゃん。」

「って、愛未が言うか(笑)」

「ホントに大したものじゃないですけど、
 良かったらどうぞ。」

「大したもんだって。
 桃のパスタは美味しいよ。」

「だろうね。
 あのお粥で既に想像出来る。
 桃ちゃんと結婚できる男は幸せだ。」

「せ、せんぱいっっ!
 ケッコンだなんて//////」

「あーーー、あの人かなぁ?
 相手の人はぁぁぁ―――」

「って、愛未ぃ!!!」

「ああ、あの人?
 そうなったらいいね、桃ちゃん。」

「え?」


え――――――っっ!?


真っ赤になったほっぺたを両手で隠し、
台所へ逃げ込んだ。


な、なんで、知ってるの?

愛未が言っちゃった?

ううん。愛未はそんなことしない。

う、うーーーーん…。




お昼の準備を一人前増やしながら、
相変わらずくつろいでいる2人を眺める。

一週間のニュースをダイジェストで流すテレビを前に、
ああでもない、こうでもないと茶々を入れている。

そのまま、夫婦漫才師として
デビュー出来そうな息の合い方だ。

リビングがあったかい。


「桃ー、早くおいでー!」

「桃ちゃん、かわいいの出てるよぉ。」

「はーーーい。」


もうすぐこのあったかさの中に
優太くんが戻ってくるんだ。

きっと、

きっと…。




「あら?賑やかだと思ったら、
 どうしたの?」


3人で囲んでいた
アールグレイの香りに誘われたのか、
お母さんが起きてきた。


「洋子ママ、おっはよう!」

「お、お邪魔してます。」

「お母さん、おはよう。
 起こしちゃった?」

「ううん。喉が渇いてね。
 私にも淹れてよ、桃。」


そう言って、
みんなが座ってるソファじゃなくて、
食卓に腰を下ろすお母さん。


「洋子ママ、こっち来ないの?」

「やーーーよぉ!
 ドすっぴんなのよ!
 イケメンの前に曝せないわぁ。」

「イケメンって、この海のこと?
 これはイケメンじゃなくて、ゲイメ…」

「だまれ!愛未!!!
 お母さん、素顔もとても美しいです。
 お化粧なんかで隠すのはもったいないです!」

「うふ。海くん、ありがと。」

「「…。」」




アールグレイを2杯飲み干し、
お母さんはまた自室に戻っていった。


「…ねぇ?
 あんたって意外と、年上キラー?」

「お母さん、いつもは寝起き悪いのに、
 すっごくご機嫌だった…。」

「洋子さんは特別だよ。」

「「よ、ようこさん!?」」


佐伯教授、
もしかしたらライバル出現かも知れませんよ。

それもかなり、
強力な…。


 ぽちりに感謝カンゲキ雨嵐<(_ _*)>



誕生日の奇跡98

台所に戻っても、
お母さんの姿は無かった。


「先、食べちゃうからねー。」


一応、小声で断りを入れる。

すると、


「だめ。」


と、小さな応答が。

でも、お母さんの声じゃない。

ていうか、
聞こえてくる方向がおかしい。

その方向…
庭に面した側の窓へ目をやると、


「ま、愛未っっ!?」


愛未の顔がひょこっと覗いていた。


「おはよう、桃。」

「おはようって愛未、どうしたの?
 やけに早いじゃない。」


取りあえず
招き入れようと近づくと、


「えへへ。おはよう、桃ちゃん。」


もうひとつの顔が覗いた。


「せ、先輩っっ!?」








「うわぁ…。美味しいねぇ、このお粥。」

「桃、結婚しよう。で、毎朝これ作って。」

「ああ、俺も。
 桃ちゃんとなら結婚してもいいなぁ。」

「何、言ってんの!
 あんたは優太と結婚したいんでしょ?
 桃は私のもんよ!」

「いいじゃないか!
 桃ちゃんは、みんなの桃ちゃんだ!」

「あのぉ…、もしもし?
 取り合いしてくれるのは嬉しいんですけど、
 おふたりはなぜここに?」

「「お粥を食べに。」」


…絶対、違うよね?




「なんだか、落ち着かなくてさ、
 朝の風景でも撮ろうとカメラ持って外に出たら…」

「何?私に捕まったって言いたいの?
 せっかく、高級ホテルの
 モーニングビュッフェに誘ってあげたのに(怒)」

「え?モーニング?
 それ行った帰りなの?」


の割には、すごい勢いでお粥が減ってるけど…。


「それがさぁ、ホテルの前まで行っといて、
 やーーーめたって帰って来ちゃったんだ。
 全く、こいつの気まぐれには呆れたよ。」

「…気が変わったのよ。
 いいでしょ、別に!
 こんな、美味しいお粥に巡り合えたんだから!」

「まぁね。結果的にはね。
 ありがとね、桃ちゃん。
 君は救いの神だよ♪」

「先輩、大げさですよ(笑)」


何か違和感を感じた。

気が変わった?

有言実行を座右の銘としてる愛未が?


「おかわりー!」


高々と茶碗を掲げる愛未に変わった様子は無い。


「愛未、食べ過ぎ…。」

「うるさい、海!」


考え過ぎかな…。


「お昼ご飯まだかなぁ♪」

「…お前の胃は宇宙かよ。」

「www」


ふと芽生えた違和感は
突然もたらされた楽しい時間に埋もれていった。


 ぽちりに感謝カンゲキ雨嵐<(_ _*)>



誕生日の奇跡97

お粥が炊けても、
お母さんは自室から出てこなかった。

ここのところ、色々あったから
疲れてるんだよね。

もう少し待って、起きてこなかったら
ひとりで食べよう。

とりあえず、冷めないように
お粥を土鍋ごと新聞紙で包む。

さらに、その周りを
大判のバスタオルで覆う。

こうしとけば、30分は熱々のままだ。


なんか、やることが昭和だなwww


自分の手際の良さに苦笑した。




洗濯カゴを持ち、2階に上がる。

今日の洗濯はこれを干せば終わり。

パンパンっと皺を伸ばしながら、
丁寧に干してゆく。

等間隔に
きれいにかかった洗濯ものを見るのは
とても気持ちがいい。

すべてを干し終えた後、
ベランダに置いてある椅子に座って、
色とりどりの洗濯ものたちを眺めた。

ゆったりと揺れる衣類。

風と柔軟剤の匂い。

ひさしぶりにのんびりとした時間…。




18年ぼやっと生きてきた私の人生は
短大に入学した事で急展開を迎えた。

たくさんの出会い。

新しい友。

そして…、
初めての恋。

本当に目まぐるしい毎日の連続で
1年前の自分からは
とても想像できない世界だった。


―少しは成長出来てる?―


自分に問いかける。


―誰かを笑顔に出来るほどの私になってる?―


どうしても、
笑顔になって欲しい人がいるから…。

でも、
そこに答えはない。

あるのは
せんせいのくれた言葉。


―お前はお前のままでいい―


「私が私のままで出来ること…。」


すっかり口癖になった魔法のひと言を呟く。

今の私に出来ることは…、


「ご飯を食べる!!!」


そう思った途端、
ぐぐーーーっとお腹が鳴った。


 ぽちりに感謝カンゲキ雨嵐<(_ _*)>



誕生日の奇跡96

目を覚ますと、
起きようと思っていた時間の1時間も前だった。

これからのことを思って、
気持ちが高ぶってるのかも…。

目覚ましを0FFにして、ベッドから起き上がる。

カーテンを開けると、
眩しい日差しが待っていた。


「よかった。雨、上がったんだ…。」


昨日1日、降り続いた雨も、
大事な本番には止んでくれたみたい。


「どうか、みんなの笑顔に会えますように…。」


キラキラ光る空に
そっとお祈りをした。




1階に下り、
洗面所で顔を洗う。

ついでに、洗濯機も回した。

今から干せば、
愛未が来る頃には乾くだろう。

お気に入りの洗剤の匂いが、
少しだけ気持ちを落ち着かせてくれた。




お母さんはまだ寝てるはず。


「明日は誕生日でしょ?
 家事は全部するから、ゆっくりしててね。
 これもプレゼントなんだから、絶対何にもしないでね!」


夕べ、寝る前にそう念を押した。

今考えると、
必死過ぎて怪しかったかな?

愛未に話したら、怒られちゃうかも。




台所に立ち、
お昼の準備と一緒に朝食の用意もする。


お母さんは食べないかも知れないけど…。


お昼は愛未リクエストのクリーム系パスタで
夜は誕生日パーティーだから、
朝は胃に優しい白粥にした。

薬味皿にお漬物を刻んだもの数種と
梅干し、佃煮、
それと藻塩を用意する。

お米からゆっくりことこと炊き上げるお粥。

私の具合が悪い時、
いつもお母さんが作ってくれる思い出の味。

年季の入った土鍋の下で
小さな火がゆらゆらと揺れていた。




結局あれから
優太くんとは会えないまま…。

何度か携帯に連絡をしてみたけれど、
電源が切られている様子で
通話もメールも返信が無い。

痺れを切らした私たち3人は
昨日、降りしきる雨の中、
優太くんの家を尋ねてみた。

お母さんが出たら、
心配かけないように明るく振る舞おうと
リハーサルまでして。

でも、誰も居なかった。

お母さんも、
優太くんも…。


それでも、みんな信じてる。

今日、必ず優太くんに会えることを。


 ぽちりに感謝カンゲキ雨嵐<(_ _*)>



誕生日の奇跡95

カタンと音を立て、
私の手から赤い箱に吸い込まれたもの。

それが私の出した答え。


せんせ、これでいいんですよね?


空を見上げ、
朝の光に問いかける。

初夏の日差しは
先生の腕の中のように温かかった。








「お前はお前のままでいい。
 背伸びをせずに、
 今のお前に出来ることを考えてみろ。」


すべての話を聞き終えた後、
先生は静かにそう言った。

それから、


「中村のことはきっと良い方向に向かう。
 心配するな。」


とも。


決して多くを語ってくれたわけじゃない。

でも不思議と
何もかもが上手くいくような気がした。

涙の代りに
勇気が溢れてきた。




部屋に再び静けさが戻る。


「私が私のままで出来ること…。」


先輩宛の手紙を見ながら、
小さく何度も呟いてみた。

それは、
宿った勇気を枯らさない為のおまじない。

そして…

鳥の声が朝の訪れを知らせる頃、
机の一番上の引き出しを開けた。


 ぽちりに感謝カンゲキ雨嵐<(_ _*)>



誕生日の奇跡94

「も、もしもし…。白石です。」


携帯を何度か震わせた後、
ようやく発した言葉は、
バイブよりさらに震えていた。


「俺だ。」


先生の声が
体の隅々まで届く。


「せんせ…。」

「ん?声がおかしいな。泣いてるのか?」


そう言われると、
余計に涙が溢れてくる。

聞きたいと願った声。

嬉しいはずなのに、
話したいことがたくさんあったはずなのに、
想いが想いを呼び、
混乱する。


「せんせ…。せんせ…。」

「桃。大丈夫だ。落ち着いて話せ。
 何かあったのか?」


甘く優しいバリトン…。


「桃…。泣くんじゃない。」


それは、麻酔のように
私の混乱をも痺れさせた。


「先生…。」

「泣きやんだか?」

「…はい。」

「話せるか?」

「はい。でも…」

「ん?」

「何から話せばいいんでしょうか?」

「…それを聞くか?」

「ご、ごめんなさい。」

「何からでもいい。全部、聞いてやる。」

「ぜんぶ?」

「ぜんぶ。」

「朝までかかるかも…。」

「それでもいい。
 お前の涙の訳を全部聞かせろ。」

「せんせ…。」


ふと、思った。

先生はなぜ、
私にここまでしてくれるんだろう?

他の生徒には
誰から見ても冷たい態度なのに…。

もしかして…?

ううん。そんなことあるわけない。

私が先生を想うように、
先生も私を想ってるなんて…。


都合のよい想像を必死で振り払い、
ぽつぽつと話し出す。


優太くんのこと、
教室でのこと、
先輩のこと、
お店でのこと…


それは取りとめのない話しで
結局、何で泣いていたのか
自分でもわからなくなるほど…。

それでも先生は
時々相槌を打ちながら、
ずっとずっと聞いてくれた。


 ぽちりに感謝カンゲキ雨嵐<(_ _*)>



誕生日の奇跡93

今、自分の頬を伝う涙は
どういう意味なんだろう…。

喜怒哀楽のどれにも
当てはまらないような気がする。

ただ、
止まらない。

とめどなく流れて…、
首筋まで濡らした。


互いを想い合う心。

それでもすれ違う心。

もがき苦しみ先が見えない心。


世の中はせつない思いで溢れている。


長い間、辛い思いをしていた先輩とお姉さん。

そして、
悲しみを隠し、明るく歩いてきた優太くん。

お母さんだって、
私を育てるのにたくさんの苦労を重ねてきた。


のほほんと毎日を過ごしてる自分が
恥ずかしく思えるほど
みんな何かを抱えている。


そう…。

先生も
私の知らない何かを抱えている…。

先生…。

無性に先生の声が聞きたい…。




充電中だった携帯を手に取り、
ナンバー000のアドレス帳を開く。

“天才”と表示された画面。

通話ボタンを押せば、
愛しい人に繋がる。

わかっているのに、
ボタンの上に置かれた親指は
動いてくれなかった。


いつでも連絡していいって言ってくれたけど、
もう11時過ぎてるし…、
非常識って思われないかな…。


躊躇している間に画面が暗くなり
“天才”の文字も消えてしまう。

それは、
燃えあがろうとしていた勇気の炎が
ふっと消えてしまったかのようで…


電話ひとつも満足にかけられない自分に
人のために何かをすることなんて出来るの?


すぅっと心が萎んでいくのを感じた。




さっきとは違う種類の涙をこぼしながら、
携帯をゆっくり机に置く。

と、同時に画面が点灯し、一瞬遅れて震え出した。


「え!?」


あまりのタイミングに
ドキドキしながら手に取ると…


「せ、せんせっっ?」


ナンバー000からの着信を知らせていた。


 ぽちりに感謝カンゲキ雨嵐<(_ _*)>



誕生日の奇跡92

海へ




海…。

海…。

私の大事な弟。

手紙一つ出すのに
2年もかかってしまった。

意気地無しの姉さんを笑って下さい。

あなたには強くあれと
散々、教えてきたのに。




あなたをあの日、
傷付けてしまったこと…、
許して欲しいとは言いません。

だってそれほど
私の罪は大きい。

誰を愛そうと
あなたはあなたに変わりないのに、
なぜ、あんな事を言ってしまったのか…。

何を言い訳にしても、
とても足りない。

そう
思っています。




ただ、私は許さなくても
あなた自身は許してあげて。

きっと、海のこと…。

自分自身を責めて、
敢えて孤独に追い込み、
心からの笑顔も無く、
毎日を過ごしてる…。

そんな気がしてなりません。

一生、会えなくても、
あなたが幸せなら私も幸せです。




海。

どうか、
自分を許して。

そして、幸せに…。




月花


 ぽちりに感謝カンゲキ雨嵐<(_ _*)>



誕生日の奇跡91

「はぁーーーー!
 つっかれたーーーー!!!」


洗濯物を出しに1階に降りると、
浴室から大きな声がした。

それを聞いて、台所に向かう。




「お母さん、入るね。」


浴室のドアを開けると
湯船で手足を解放したお母さんの姿があった。

つぶった目の下には
疲労の証がくっきりと出ている。


「ホント大変だったね。
 お疲れさまでした。」


私は静かにねぎらいの言葉をかけ、


「のぼせないでね。」


と、浴槽の縁にグラスを置いた。


「ん?良い匂い。なぁに、これ?」


目を開けたお母さんがグラスを手に取る。


「ジンジャー入りのミントティ。
 長湯になりそうだから、水分補給ね。」

「あーーーん、気がきくぅ♪頂きまーーーす!」


美味しそうに口をつける様子を見て、ドアを閉めた。




再び台所に戻った私は
自分の為のお茶を準備する。

しんとした部屋の中で
しゅんしゅんとお湯が湧く音がやけに響いた。


今晩、
先輩から預かった手紙を読もうと思う。

優太くんのことも、きちんと考えたい。

私にだって、
何か出来ることがあるかもしれない。

何か…。


棚に並んだ瓶を眺める。

緑、黄、橙、赤、茶…

色とりどりのお茶たちが私を誘う。

そして、
ひとつに手を伸ばした。




湯のみを机に置き、椅子に座る。

ピンク色の陶器に
緑色が濃く浮かんでいた。

口に含むと、
じわっと甘みと苦みが広がる。


先生が煎れてくれたお茶、
美味しかったな…。


抹茶が入ったこのお茶を選んだのは、
先生に勇気を貰いたかったから。




数分かけて飲み干した湯のみを
机の隅に置き、
バッグから薄黄色の封筒を取り出す。

中の手紙を傷つけないように、
はさみで丁寧に封を開いた。

他人の私が最初に目を通す。

考えもしなかった事だろう。


「海先輩のお姉さん、ごめんなさい。」


手紙に向かって
そっと断りを入れた。


 ぽちりに感謝カンゲキ雨嵐<(_ _*)>



 

誕生日の奇跡+愛未with海

「桃ちゃんって不思議なコだよなぁ。
 優太は亡くなった妹に似てるって感じたんだよな。
 俺は…
 生まれたばかりの姪に似てるって感じた。
 もしかして、愛未も何かあるんじゃない?」


隣で歩くこの男。

ゲイの仮面を被った、
ふたつ年上の男。

なかなかやるなとは思ってたけど、
そこに気付いたか…。

さすが、私が仲間と認めたヤツ。

新田海。

にったかい。

よく考えると、変な名前www




最初は優太を狙うストーカーとしか思ってなかったけど、
話してみると意外にウマが合った。

一を話せば、十まで理解してくれる。

視点が似ているのか、
めんどくさくない。

逆に隠し事が出来ないってリスクはあるけど。


「ある。
 でも、言ってないんだよね。」

「え?」

「言ってないの、桃にも。」

「ふぅーーん。じゃあ、聞かない方がいい?」


ああ、海って…、
こういうところがあるんだよねぇ。


「おもしろいのに聞かないの?」

「うん。愛未が嫌なら。」

「ふふっっ。」

「なんだよ!」

「べーーっつに(笑)」


そう。

この男は案外イイやつなんだ。

心に傷を負ってるから、人を思いやれる。

だから、
桃の側にも置いておける。

きっとあのコを支えてくれる。

優太と一緒に。


「よし!特別に話そう。
 よーーーく、聞きたまえ。」

「ちょっと待て!
 お前、金取るんじゃないだろうな?」

「あ、バレた?」

「…アホか。」


楽しい。

他愛も無い会話なのに、
本気で笑ってる自分がいる。

手放せるんだろうか、

その時が来たら…。


海はふと立ち止まり、
夜風を楽しむように瞳を閉じた。

涼しげな表情に、
青い月が映える。

その光景は
絵画のように美しく、
私の狡猾な唇をも黙らせた。


 ぽちりに感謝カンゲキ雨嵐<(_ _*)>



誕生日の奇跡+海with愛未

「先に謝っとく。
 今日、桃ちゃんを送ってくつもりが
 長話に付き合わせちゃったんだ。
 それで、あの事態に遭遇した。」

「ふーーーん。
 まっ、いいんじゃない?
 桃も元気そうだったし。
 で?何の話?
 おもしろい話なら聞かせてよ。」

「…おもしろくはない。多分。」

「なら、いい。」


ママの店を出て、駅までの道を2人で歩く。

この、ふたつ年下の北川愛未は
俺に敬語というものを使わない。

最初は腹が立ったけど、
今では何も感じなくなった。


「ところで愛未。例の吉報は?」

「明日報告するって言ったじゃん。」

「そうだけど…、気になる。」

「今、作業中。
 結果は明日学校に来ればわかる。
 説明もちゃんとする。」


前言撤回。

やっぱり、もう少し先輩を敬え!


勘の鋭い隣の女は
俺のムッとした気分を察してるはずなのに、
お構い無しに歩みを進める。

強えー女。

儚げな桃ちゃんとは正反対だな。


「ねぇ。さっきの話なんだけど。」

「…」

「ねぇ?無視ってんじゃないわよ(怒)」


結局、俺が折れるんだよなぁ。

聞えよがしにため息をついて、
愛未の話に乗ってやる。


「…なんだよ。」

「佐伯教授の話よ。
 あんた、気にならない?」

「気になってるよ。かなりね。」

「洋子ママは100%イイ人だからねー。
 教授に確認なんて…」

「しないよ。1ミリも考えないよ、そんなこと。」

「だよね。
 私なら、速攻してるんだけど。」

「俺も(笑)」

「で、イタズラってわかっておしまいみたいな。」

「そうそう。」


嫌々、受け応えしてやるつもりが
いつの間にか本気の会話になる。


「なんで、佐伯教授なんだろ…。」

「だよな。そこが気になるんだ。
 紹介は嘘でも、
 知り合いではあるのかも知れないな。」

「うん。」


こういう所に疑問を持つところ…、
視点が似てるんだ、こいつとは。


「明日、本人に聞いてみるか?」

「そうねぇ。それも手だけど…。
 恐らく明日には教授の耳に入ると思う。」

「は?誰経由で?」

「桃。」

「はぁ!?」

「正確に言うと、
 桃→ある人物→佐伯教授なんだけど。」

「…ちょっと待て。
 俺、わかっちゃったかも。」

「へぇ。やるわね。」

「まぁね。」


愛未は
なんだか嬉しそうに目を細める。

その瞳は

“さすが私の選んだヤツ”

って言ってる気が…。


ん?

まてよ。

それって、自分を褒めてるんじゃん!


月を見上げ、長い髪を揺らす。

黙ってればきっと、
イイ女なんだろうけどな。


自信過剰で
女のくせに俺様なヤツ。

でも、
…嫌いじゃない。

嫌いじゃないんだ。


「さすが、愛未様だな。」


今日は特別に持ち上げてやるか。

良い夜にしてくれた
ご褒美ってことで。


愛未は立ち止まり、
月から俺に視線を移す。

そして、
満足げに微笑んだ。


 ぽちりに感謝カンゲキ雨嵐<(_ _*)>



 

誕生日の奇跡90

50人分あった食べ物は
1時間もしない内にキレイに無くなった。

勇者たちの胃袋の中に…。


「いいのよ、そんなことしてくれなくても。」

「いえ。これは
 作ってくれた方へのありがとうの気持ちですから。」

「そうそう。ママさん、気にしないで。」

「私たち、この店すっごく気に入ったんです。」

「絶対、また来ます。
 学校の近くにこんな美味しい店があったなんて!
 友達も連れてきますね。」


そう言って、食べ終えたお皿を
次々とカウンターに積み上げていく4人。

動かされていた椅子やテーブルも
きちんと元の場所に直された。


「キッチンは聖地ですから、
 僕たちが出来るのはここまでです。
 申し訳ございませんが、後はお願いします。」

「とんでもない。
 みなさん本当にありがとう。
 私、なんて言うか…とても感激したわ。
 捨てるしかないなって思ってたのに
 あんなに美味しそうに食べてくれて、片付けまで…。
 また是非、来て下さいね。
 超超超大盛りメニューでお迎えしちゃいますから!」

「ママさん…。
 私、食べて感激されたの初めて。」

「そうそう。
 どっちかっていうと迷惑がられる方だから(笑)」

「そのいたずら電話かけたヤツに感謝かも♪
 あ…、やっぱり許せないか?」


柔らかい空気が店内を包む。


良かった…。

お母さんも嬉しそう。


「みなさん。
 そして、愛未に先輩。
 本当にありがとうございました。」


私は6人に向かって深々とおじぎをした。


いたずらした人は許せないけど、
私には助けてくれる友達がいる。

新しい出会いもある。


顔を上げると、
みんなの笑顔が待っていた。


人って、いいな。

人って、あったかい。


じゃあ、そろそろ…と4人が出ていこうとした時、

「まだ、残ってるっっ?」

と、ひとりの男性が飛び込んできた。


「ボブーーー!!!」

「遅いよっっ!」

「残ってるわけ無いでしょ?」

「ていうか、もう帰るとこだし(笑)」


ボブと呼ばれているその男性は、
ぜいぜいと息を切らせながら、
大いに残念がった。

その反応を見て、
なぜか顔を見合わせる4人。


「でも…」

「私たちにとっては…」

「遅れていただいて…」

「よかった…なんてね(笑)」


わけが分からず愛未を見ると、
笑いを堪えながら説明をしてくれた。

ボブさんは大食い界の新星で
只今、食べ盛りの伸び盛り。

この人が勢い付けば
今日の料理ぐらいなら1人で完食できるかもと。


「だからね、
 4人にとっては脅威なのよ、この人は。」

「そ、そうなんだ…。」


あの、4人よりすごいって…(汗)


「脅威って、
 僕、愛未さんには一度も勝ってませんからっっ!」

「え!?」


今、なんて?




肩を落としたボブさんをなだめる様に
帰っていく4人。

それを、


「じゃあ、また。」


と、クールに見送る愛未。


こんなに長い間いっしょにいたのに、
まだ知らない愛未があるんだ…。


人って、謎。


 ぽちりに感謝カンゲキ雨嵐<(_ _*)>



誕生日の奇跡89

「私が参戦するまでもないか。」


4人を前に満足そうに頷く愛未。


「お、お母さん…。」

「す、すごいわね…。」


そこには、
未だかつて私たち親子が目にしたことが無い
“ありえない光景”が繰り広げられていた。








「こんばんは。いきです。」

「みいと言います。」

「菜莉です。よろしく。」

「水聖(みさと)です。こんばんは、桃ちゃん!」


いきさんと名乗った人以外は女性。

その内1人はクラスメイトだった。


「み、みさとちゃん?どうして?」

「ふふふ。クラスのみんなには内緒ね♪」

「愛未、どういうこと?」

「見てればわかるって。
 じゃあみんな、好きにいっちゃって。」

「いっ…ちゃって…?」


その疑問は
直ちに解決することになる。




「こっち全部いっちゃっていいかしら?」

「そうだねー。移動するのも面倒だから、場所で区切ろうか。」

「あー、私、から揚げゾーンいきたいっっ!!!」

「じゃあ、あなたはソッチね。
 私は、コッチの炭水化物とデザートゾーン♪」


4区画にそれぞれ分かれて、一斉に…


「「「「いただきまーーーす!!!」」」」


キレイに合掌をする。

その途端、次々と消えて行く食べ物。

それは、魔法の様。

でも、


「う、うまいっっ!このハンバーグ!!!」

「おでん、味染みてるーーー!!!」

「から揚げも冷めてるのに柔らかいよぉ!!!」

「卵焼きが入ってるサンドイッチって初めて!
 ハマるよ、これ!!!」


みんなすっごく美味しそうに食べる。

無理な早食いや大食いとは違う。

食べ物が好きで、
食べることが好きで、
作った人に感謝を忘れない。

そんな思いが伝わってくる。


「生で見ると圧巻だ…。」


さっきまで涼しい顔をしていた先輩も
さすがに驚きを隠せない様子で、


「ビデオカメラ持ってくればよかったよ。」


と、本気の呟きをして皆を笑わせた。


 ぽちりに感謝カンゲキ雨嵐<(_ _*)>



 

誕生日の奇跡88

「お母さん、作ったもの捨てないでもらえます?
 それと、あともう少し帰らないで下さい。」


これは、
お母さんが片付けを終えて帰ってきた途端、
先輩が言った言葉。

私にもよくわからないんだけど、
先輩が電話した先はたぶん愛未。


「やだぁ。海くん、冷蔵庫見たの?」


手を洗いながら、
お母さんが困った顔をした。


「すいません。勝手しました。」

「別にいいんだけど。
 心配するでしょ、必要以上に。」

濡れた手で指さした先は私。

湯気をくゆらせるハーブティの前で
唇を尖らせて反論する。


「心配するよぉ!当り前でしょ?
 50人分作るなんて、すっごく大変だったろうし。」

「そうねぇ…。
 正直言うと、久しぶりに精も根も尽き果てたって感じ。
 美味しそうに食べてくれることが一番嬉しい商売だから。」


そう言うとお母さんは
先輩の隣に座って、ハーブティにはちみつをたっぷり入れた。

それを何度か口に運ぶのを待って、
先輩が話しかける。


「お母さん。ちょっと気になったんですが…」

「なぁに?海くん。」


頬杖をつき、先輩を見つめるお母さん。

疲れた表情が逆に色っぽい。

娘の私から見てもどきっとした。

先輩は…


「え、えーーーっと…あの…」


少し視線を外し、話を続けようとする。


耳たぶ、赤い。

照れてるんだ、先輩(笑)


「予約なんですけど…」

「ん?」

「電話があったんですよね?」

「そう。」

「女性でした?男性でした?」

「女性よ。若い声だったわ。」

「名前は言いました?」

「田中って言ったわね。」

「田中…。覚えがある名前ですか?」

「よくある名前だからねー。
 でも、声に聞き覚えは無かったな。」

「それなのに、予約取ったんですか?
 いくらお母さんが良い人でも…」

「…海くん、ミステリーファンでしょ?
 私が好きな英ちゃんばりに勘が鋭いわね(笑)」

「え、えいちゃん?」

「先輩。
 お母さんは船越英一郎さんのファンなの。」

「あ…。それで英ちゃん…。」

「優しそうなところが良いのよねぇ…。
 って、なんだっけ?
 あ、そうそう。
 あのね、予約の電話の時に
 佐伯教授の紹介でって言ったのよ、その田中さん。」

「「えっっ!?」」


佐伯教授!?


驚いて先輩と顔を見合わせた時、


「こんばんはーーーー!!!!」


威勢のいい声とともに愛未が店に入ってきた。




「洋子ママ、料理ジャンジャン並べてっっ!
 ほら、桃も海も手伝って!」

「え?な、なに!?」

「どうしたの?愛未ちゃん!?」


さっきの驚きもそのまま、
愛未の勢いに捲し立てられ席を立つ。

その中で先輩だけ、


「集まったんだ。」


と、涼しげに微笑む。


「あんた、知ってたんだ。」

「まぁねぇ。
 どこに行っても愛未の名前があったからさ。」

「それだけで?」

「他にもいくつか、よく見る名前があった。」

「ふふ。やるわね、海。」

「ふふーーーん。
 推理力は愛未に負けないつもりだよ。」


なに?

このふたりの会話…。

ちんぷんかんぷんなんですけどぉ…(汗)


そこに、


「愛未さん、来ましたよー♪」

「失礼しまーーーす!」

「うわっっ!おいしそう!!!」

「お誘いありがとうございます!」


4人の勇者がやってきた。


 ぽちりに感謝カンゲキ雨嵐<(_ _*)>



 

誕生日の奇跡87

「こんばんは。」

「お母さん、ただいまー…って、あれ?」


いつもなら
2、3組はお客さんが入ってる時間に誰もいない。

それどころか…


「桃ちゃん、お母さんは?」


お母さんまでいない。

店内は薄暗く、
キレイに片付けられている。


「今日休みなの?」


先輩の言葉にふるふると頭を振った。


お母さん…どうしたの?

学校から帰って店が開いてないことなんて、
一度も無かったのに…。


「お母さんっっ!どこっっ?」


人混みの中ではぐれてしまった時の様な
心細さでいっぱいになり、
店の隅々まで聞こえるほどの叫び声を上げる。

すると、
ガチャリと裏口のドアが開き、


「なぁに?なんて声出してんのよ、桃―!」


と、お母さんがひょっこり顔をのぞかせた。




「お母さん、これ…。」


カウンターにきっちりかけられた布巾を指さす。

それはいつも閉店後に行うものだった。


「ああ、今日ねぇ、
 団体さんの予約が入ってたんだけど
 キャンセルになったのよ。」

「団体さん?聞いてないよ、そんなの。」

「うん。そうなの。
 お昼頃ね、急に決まったのよ。
 で、お店閉めて大急ぎで準備したら…」

「キャンセルされたんですか…。」

「あら、海くん。いらっしゃい。」

「どうも。お邪魔してます。」

「お店、開けないの?」

「もう、疲れちゃった。今日は閉めるわ。」


なんだか、らしくなかった。

そんなことぐらいで、
気落ちするお母さんじゃないのに。


「何人分の予約だったんですか?」


カウンターの中をチラリと見て、
先輩が尋ねた。


「50人。」

「ご、ごじゅうにんっっ!?」


その返事にビックリしたのは私。

だって、この店は
20人入れば満席になる小さい店だったから。


「イタズラですかね…。」


私とは反対に
冷静に言葉を運ぶ先輩。


「う…ん。やっぱり、そうなのかしら。
 まぁ、おかしいとは思ったのよ。
 急に50人なんてね。
 でも、予定してた店が食中毒を起こして、
 急遽、新しい店を探さなきゃいけないって
 泣きつかれてねぇ…。
 立食にするとか、
 時間差で入店するとか言われたし。」

「お母さん、優しいですね。
 桃ちゃんはお母さんそっくりだ。」


そう先輩は
驚きで座り込んでしまった私に微笑んだ。

落ち着いてと言ってるように…。


「ふふ。ありがと、海くん。」

「いえ。」

「座って。お茶でも淹れるわね。」

「あ、お母さん、私がする。」

「そう?じゃ、お願い。
 私はもうちょっと裏を片付けてくるわ。」

「うん。」




お母さんが裏口へ消えた後、


「桃ちゃん、冷蔵庫開けて。」


と先輩が小声で言った。


「?」


意図はわからなかったけど、
急いでと促されて、
観音開きのドアを開けると…


「こ、これ…。」

「…。」


色とりどりの料理が
ギッシリと隙間なく詰められていた。


「50人分だもんな…。」


ため息交じりに先輩が呟いた。


誰にも食べられないで、
消えて行くんだろうか、この料理…。

たくさんの人に手をかけられ、
最後はお母さんに丁寧に料理されたこのコたち…。


「かわいそう…。」


そうは思っても、
どうすればいいか見当もつかない自分が腹立たしかった。


「桃ちゃん。こんな時こそ、アイツの出番だろ?」


先輩はニヤリと笑い、
1本の電話をかけた。


 ぽちりに感謝カンゲキ雨嵐<(_ _*)>



 

誕生日の奇跡86

「友達になってくれたばかりの君に
 こんなことを頼むのは
 どうかと思うんだけど…。」


足元に視線を落とした先輩の決心が
わずかに揺れているのがわかった。


前に踏み出そうとしている先輩を
止めちゃダメだ!

大切な手紙…。

もしかしてこれは
先輩とお姉さんにとって、
閉ざされた扉の鍵なのかも知れない。

私に何が出来るのかわからないけど…。


「先輩!私、預かります!!!」


そう言って、
両手で手紙を受け取る。

先輩は一瞬驚いた顔を見せたけど、
直ぐにホッとしたように笑った。


「うん。ありがと。
 読んでも
 読まなくても
 構わないから。
 君に…任せるよ。」


“君に任せる”


その言葉の重さに改めて緊張が襲う。

でも、
先輩の…
本物の笑顔が見たいから。








「先輩、寄っていきませんか?」


ママの店の前で誘ってみた。

疲れた顔してる先輩に
何か美味しいもの作ってあげたい。


「ああ…うん…。」


迷ってる風な先輩。


「今日は…」

「桃ちゃん、
 ちょっと、ちょっとっっ!」

たぶん、“やめとく”って
言おうとした先輩の言葉を遮って、
隣の果物屋さんの奥さんが呼びかけてきた。

しかも、辺りに聞こえないように小声で…。

急に訪れた緊迫感にドキドキしながら、
果物屋さんに入っていく。




「ど、どうかしたんですか?」

「あら、彼氏?
 かっこいいじゃない♪」


奥さんは私に付いてきた先輩を見て、
いきなりの爆弾発言。

オタオタと慌てる私の代わりに先輩が、


「残念ながら、友人です。」


…なんだかビミョーな返事をした。

紳士的な笑顔に頬を染めながら、


「いいわね。青春ね。」


と、うっとり先輩を見つめる奥さん。


「あ…の、話があったんですよね?」


先輩は色っぽい視線に後ずさりしながら、
話の進行を促した。


「あ、そうそう。さっきね。
 黒塗りのおっきい車がそこにどっかり停まってさぁ。」


そう指さした先はママの店の真ん前。


「こんな細い道に非常識でしょ?
 長い間停めるんだったら文句言ってやろうと
 ずっと見てたわけっっ!
 そしたらさ、運転してる男が
 あんたの店をじーーーっと観察してんのよ。
 ストーカーとかだったら問題でしょ?
 だから、顔見てやろうと前に回り込んだら
 慌てて走り出したのー。」

「顔、見たんですか?」

「ううん。サングラスしててね。
 でも、後ろにも誰か乗ってるような感じだった。
 スモーク貼ってて、よくは見えなかったけどさ。」


黒塗りの大きな車…

2人ともその車に覚えがあった。




奥さんにお礼を言って店を出ると、


「桃ちゃん、やっぱりお邪魔するよ。」


と、先輩はママの店のドアを開けた。


 ぽちりに感謝カンゲキ雨嵐<(_ _*)>



 

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