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誕生日の奇跡124

誰も言葉を発することない空間で、
壁に掛けられた時計の針だけが
音を立てて動いてゆく。

月香さんは
自分の手と先輩の手を
厚みの無い胸から外し、
膝の上に置いた。




「乳がん、だったのよ…。」




美しいその人の口から出た言葉は
あまりにも衝撃的なひと言だった。








  一生、会えなくても、
  あなたが幸せなら私も幸せです。




薄黄色の手紙に書かれていた一文が
フラッシュバックのように頭に浮かぶ。

あの文を読んで、


一生会えなくても…
なんて悲しすぎる。

この先、何十年も
お互いを想い合いながら
会わないなんて…。


そう思って手紙を出した。

先輩に会いに来て下さいと…。


でも、あれは…
こういう意味だったんだ。

自分の死を意識した…。




「あなた、医大生でしょ?
 色々知ってる分だけ、
 心配させると思って…。

 だから、
 痩せたのは病気のせい。
 海のせいじゃない。」

「くっ―――…」


先輩は
嗚咽を堪えるように
手首で口を押さえる。

それでも漏れる声に
私たちは


…泣いた。


 ぽちりに感謝カンゲキ雨嵐<(_ _*)>



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誕生日の奇跡123

先輩の頬に
新たな涙が流れる…。


とても透明な
美しい涙が

幾筋も…

幾筋も…。




月香さんの手紙を読み終えた先輩は、
もう一度私の手紙を読んだ。

やがて、
ゆっくりと顔を上げる。


「姉さん。
 俺たちは間違ってた。
 そうだね?」

「ええ。そうよ。」

「自分を責めて…、
 姉さんから、家族から逃げて…、
 俺は…。」

「海…。」


月香さんの白い手が
濡れた頬に伸びてゆく。

先輩は一瞬躊躇し、
体を引こうとしたけど、
直ぐに力を抜き、頬を預けた。


「海は昔から泣き虫ね。
 小さい頃も
 よくこうやって涙を拭ったわ。」

「姉さんは…、
 姉さんは痩せた。」


頬に置かれた手を
壊れもののように優しく握る先輩。

その手のさらに上から、
月香さんのもう一方の手が握る。


「海。
 これは黙ってようと思ってたの。
 父さんにも、
 母さんにも、
 口止めをしていたの。」


そう言った月香さんは
先輩の手をある部分に導く。




そこは…




「わかる?
 無いでしょ?こっちのおっぱい。」




月香さんの左胸に
自身の手を押しあてられたまま、
先輩の時間は止まった。


 ぽちりに感謝カンゲキ雨嵐<(_ _*)>



誕生日の奇跡122

受け取った封筒を凝視しながらも
一向に読もうとしない先輩に
月香さんが優しく話しかける。


「読む勇気が出ない?
 …分かるわ、海。
 私もそうだったから。

 私も…
 あなたに会いに来る勇気が無かった。

 2年経ってようやく出来たことが
 あなたに手紙を出すこと。
 その手紙も今考えると
 “本当に伝えなければいけないこと”は
 書いていなかった。

 それを気付かせてくれたのはこの手紙よ。
 この手紙が、
 私にここに来る勇気をくれた。
 だから…、
 私が書いた手紙は読まなくてもいい。
 でも、こっちの手紙は読みなさい。
 あなたの友達、
 白石桃ちゃんが書いた手紙は。」


先輩は泣いて真っ赤になった瞳で私を見た。

答えを求めるように…。




正直、アレを読まれるのは恥ずかしい。

勇気を与えることなんて、
全然書いてないし…。

それでも、
ちょっとでも、
役に立つんだったら…。


私は
こくんこくんと頷いた。




先輩は
薄黄色の封筒を膝の上に置き、
薄桃色の封筒だけを手に取る。

そして、
声に出すことなく
読み始めた…。




床に正座した先輩は、
皆が見つめる中
くるくると表情を変える。


驚いた顔。

照れた顔。

笑った顔。


瞳の動きで
どこを読んでいるのか想像出来て、
ますます恥ずかしい気持ちになった。


手紙の最後…
一番下まで移動した瞳は、
もう一度上に戻る。

何度かそれを繰り返した後、
先輩は手紙を封に収めた。




そして、
薄黄色の封筒を手に取る。




月香さんの元から離れて2ヶ月…。




ようやく、
愛しい人の心に届く。


 ぽちりに感謝カンゲキ雨嵐<(_ _*)>


誕生日の奇跡121

「姉さん?海の?
 一体、どう…」

「愛未。」


私は質問を遮るように
首を横に振った。

意図を察してくれたのか、
愛未は黙って椅子に座る。

優太くんもそれに倣い、
愛未の隣に腰かけた。

静かになった店内で
私もそっと移動する。




「海。久しぶり。」

「姉さん…、どうして…。」

「桃ちゃんがね、手紙をくれたの。
 今日、良かったら来てくれませんかってね。」

「桃ちゃんが!?」

「そう。
 あなた、良い友達が出来たのね。」


海先輩を見つめながら、
微笑む月香さん。

柔らかな笑顔に反して、
その体は折れそうなほど細い。

羽織った薄手のカーディガンが
サイズ違いのように余っていた。


「…随分、痩せたね。俺の…せい…だ。」


直視するのが耐えきれなくなったのか、
先輩は月香さんから目を逸らした。


「海。
 今日はそんな事を言う為にここに来たんじゃないの。
 私が…こうなったのは誰のせいでもない。
 もちろん、海のせいなんて絶対ない。」

「うそ…つくなよ。
 いいんだよ、俺が悪いんだ。
 頼むから、もっと責めてくれよ。」


先輩は
心の底から絞り出すような声を上げ、
膝から崩れ落ちるようにしゃがみ込んだ。


「海…。」


月香さんは足元にうずくまる弟を
とても…
とても悲しそうな顔で抱きしめた。

スカートが汚れることも気にせずに、
自身も跪いて…。


「責められるべきは私。
 私の方こそ、そう思っていたの。
 ずっと、長い間…。」


ゆっくりと先輩の背中をさする。

やがて、
先輩の嗚咽が小さくなった頃、
月香さんはバッグから2通の封筒を取り出した。


「これを読んで…、海。」


小枝の様な細い指が持つそれは、
月香さんが先輩に宛てた手紙と
私が月香さんに宛てた手紙だった。


 ぽちりに感謝カンゲキ雨嵐<(_ _*)>



誕生日の奇跡120

ゴンッッ…


先輩の手から滑り落ちた日本酒の瓶が
鈍い音を上げた後、コロコロと転がってゆく。


「先輩?」

「海?」


明らかに様子がおかしい先輩を
訝しげに見る優太くんと愛未。

その先輩は
青い顔のまま、
入り口に立つ女性を見つめている。

ちょうど、その女性と先輩の間に座っていたお母さんは
何かを察知したのか、
スクッと立ち上がり、カウンターの方へ移動した。

途中で転がった酒瓶を拾って…。




少し開いた
先輩の唇が震えている。

その震えが
言葉を紡ぐ作業の邪魔をする。


「誰なの?海の知ってる人?」


愛未の質問にも答えない。

いや、答えられないんだろう。

見開いた目が
動揺で揺れ続けていた。




私は一度だけ深呼吸をして、
ゆっくり歩き出す。

そして先輩の横を通り、
女性の前に立った。




瞳が私を捉える。

それを真っ直ぐに見つめ返した。




できるだけ、いつもの自分で…。

できるだけ、いつもの笑顔で…。




やがて、
緊張の色が薄れ、


「あなたが桃ちゃんね?」


耳に心地良い
落ち着いたトーンの声が聞こえた。


「はい。
 来てくれて嬉しいです、月香さん。」

「こちらこそ。
 お招きいただいて…」




優しい笑顔…。

先輩にとてもよく似た…。




「姉さん…」




掠れた声が愛しい人を呼ぶ。

そして、
声とともに溢れた涙が
先輩の頬を濡らした。


 ぽちりに感謝カンゲキ雨嵐<(_ _*)>




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