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やさしい雨22.90

「つめたいっっ!」

痺れを切らした雨雲が
一滴のしずくを桃に落とした。

それは、涙と見間違うような位置で
俺の代わりに泣いてくれているようだった。

そのしずくを指で拭って、

「予想的中だな。」

と笑う。

桃を…
運命を…
受け入れた今
不思議なほど心が軽かった。

待っていたんだ、ずっと。

俺を裁いてくれる天使を…。




降り出した雨は
優しくも確実にふたりを濡らしていった。

桃に着ていた白衣をかけてやる。

本当は帰れと促すべきなのだろうが、
もう少し、隣にいて欲しいと素直に思った。

「大丈夫です!先生が濡れちゃうっっ!」

桃は急いで白衣を返そうとする。

そうだろうな。

お前ならそう言うと思っていた。

だから、

「お前にかけたんじゃない、カメラにかけたんだ。」

そう、いつもらしく言ってやる。

跪き、審判を待つ
醜い俺を隠して…。




それなのに、
尚も俺を気遣う桃。

小さな体を伸ばして
俺の頭に白衣をかけようとしている。




そんなとこまで似てるんだな。




マコにそっくりな天使が
10代の姿で現れたのも
きっと意味があるんだろう…。

忘れようとしていた青春を
思い出させるためなのか、
それとも、俺を
より効果的に苦しめるためなのか。




いいさ。

受け入れるよ。




甘く
ほろ苦い
青春のすべてを思い出し、




そして…




血の涙を流そう。




桃。

君の隣でね。




ふたりで入る白衣の中は
心地よ過ぎて
何度も目眩に襲われた。

小さな桃をこの手に抱きしめ、
今すぐ懺悔したい…
そんな衝動が心を蝕む。

そんな欲望をかき消すように
雨の中、
ただひたすら
話し続けた…。

いつもより口数が多い俺を
不思議そうに見つめる桃。

君は
すべてを知っても
俺とこうして
白衣の中にいられるのだろうか…。

いや、
もう知っているのか…。




別れ際、
走り書きしたメモと
屋上の鍵をポケットに忍ばせ、
白衣を桃に渡した。




待ってるよ。




ここで…




この場所で…。




桃が帰った後も
ひとり雨に身を任せた…。




天使の温もりが
体から消え去るまで…。


 ぽちりに感謝カンゲキ雨嵐<(_ _*)>



 
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やさしい雨22.80

俺を呼ぶ声がする。

儚げな
今にも消え入りそうな声が…。




マコ…

おまえなのか?




俺を…

責めているのか?




「…――――…」




「…――――せ?」




「…せんせ?二ノ宮先生?」




突然、
呼び続ける声が桃のものだと理解した。

大きく見開いた瞳を
不安で濡らす桃…。

「そんな顔…するな。」

こんな俺のために…。




必死に心の内を覗こうとする瞳から目を逸らし、
少し乱暴に頭を撫でる…。

これが精一杯だ。

これ以上は…。




本当の俺を覆い隠すように
無表情の仮面をつけ
残りの写真を見た。

見れば見るほど酷似している写真に
混乱は深まるばかり…。




カメラを桃の膝に置き、
背を向けるように立ち上がる。




こんなにも簡単に引き戻されるのか…?

もがき苦しんだ、あの日々に…。




忘れたくて、

許されたくて、

ただ、
がむしゃらに研究に没頭した18年…。

でも、
そんなことでは
足りないことはわかっていた。




なぁ?

俺はどうすればいい?

どうすれば…。




煙が天に昇っていく。




マコ…

教えてくれよ…。




その時、答えをくれたのは
後ろにいる桃だった。




「せんせ…雨のにおいしますね。」




―「恭、雨の匂いするね!」―




はっきりとリンクする。




俺は迷わず


「そうだな。」


と笑った。




久しぶりに人に見せる、
心からの笑顔。

マコの前でしか見せたことのない
本当の俺…。




もう、隠しても無駄なんだと悟った。




マコはここにいる。

俺を許さないために。




抗うのは止めよう。

これが俺の運命なのだから…。


 ぽちりに感謝カンゲキ雨嵐<(_ _*)>



 

やさしい雨22.70

結構あるな…。

150枚近くある写真をスクロールしていく。

隣で待つ桃を見ると
目を閉じ、胸の位置で両手を組んでいる。

何だ?拝んでるのか?(笑)

全く…
こいつにはいつも驚かされる。

思ったより上手く撮れていて
残念ながら、
大したけなし方も出来そうにない。

構図もまずまずで、
前回からするとすごい進歩だ。

どの料理も美味そうに見える。


褒めて…やるか。


桃の嬉しそうな顔が浮かんだ。




そうして写真をスクロールしていく内に
ふと、1枚の写真で手が止まった。




この写真…


どこかで…




頭の中に
警鐘が鳴り響く。




オモイダセ





オモイダスナ




煩い…


黙れ…




全身の血が沸騰したように熱い。




そうだ。




この写真はあの時の…。




  「ねぇ?どうかな?」

  「いいんじゃないか?
   うん。上手く撮れてる。」

  「そう!良かった!!!」

  「で?何に使うんだ、この写真は?」
  
  「ふふふ。まだ、内緒!
   出来あがったら2番目に見せるね!」

  「1番じゃないのかよっっ!(笑)」

  「まぁねぇ(笑)」

  「それにしても、美味そうだなこのハンバーグ。」

  「美味そうじゃなくて美味いのっっ!」

  「あ、そう。」




似ている…。

料理の配置もそっくりだ。



ゆっくりと
カメラから
視線を移す…。




捉えたのは
華奢な体の
弱々しい…




お前は




誰だ?


 ぽちりに感謝カンゲキ雨嵐<(_ _*)>



 

やさしい雨22.60

自宅には主人に触れてもらえなくなったカメラが数台ある。

防湿庫に入れてはあるが、

…それだけだ。

18年前から手に取ることもしなかった。

そう、

目の前に差し出された
このカメラに触れる日までは。




「あ、あの。せんせ?
 昨日、ウチの料理、色々撮ってみたんです!
 見てもらえますか?」

そう言って、
ぐいと突き出された緑色のコンパクトカメラ。

前回、これと出会ったおかげで
我が家のカメラは日の目を見ることになった。

シャッターを切った瞬間の感触…。

小さなカメラのそれでは
どうにも物足りなかった。

そうして、
防湿庫の扉は
18年の時を経て開かれた。




故障もカビの発生も無く
無事、生還を果たしたカメラ達。

今主流のデジタルカメラでは無く、
すべてがフィルムカメラだ。

その内の1台を手に取り、
ファインダーを覗く…。

シャッターボタンに乗せられた人差し指が
微かに震えた…。




そしてまた
引き金になった緑のカメラがここにある。

このカメラに触れれば
何かが起こる…

そんな予感がして、
受け取ることを躊躇した。

いつまでも手を出さない俺に
桃の戸惑いが伝わってくる。


何を迷っている。

写真を見て、
ひと言ふた言、意見してやればいいことだ。


ぐらつく思いのまま、
小さなカメラに手を伸ばす。


「お前…、
 けなされて喜ぶタイプなのか?」


揺れ続ける心を隠すように
いつもの俺様風の言葉を添えて…。


 ぽちりに感謝カンゲキ雨嵐<(_ _*)>



 

やさしい雨22.50

「あの、座ってもいいですか?」

そう言って
桃が隣に座ってきた。

疲れました…ってとこか。

俺も年甲斐もなく遊び過ぎた。

こいつが側にいると調子が狂う。




小さな息遣いを感じながら
ゆっくりと目を閉じる。

この屋上は何年もの間、
独りになるための場所だった。

さらにそれ以前は、
仲間と過ごすための場所で…。

ごく自然に他人の侵入を許した
俺自身に驚いている。

前回は
研究に終わりが見えた高揚感から…
という理由も成り立つだろうが、
今回は…。

まさか、この小娘相手に恋愛感情もないだろう。

18も年が離れている相手に触手が向くほど
女に不自由していない。

それならば、
大人しく隣に座らせている俺は何なんだ?

何と理由をつけるんだ?

田辺の言ったことが頭から離れずにいた。




さっきから、
閉じた瞼に…
煙を吐き出す唇に…
視線を感じる。

授業中に盗み見るように向けられる
視線を思い出した。

あんな風に見てるのか?

頬を染め、潤んだ瞳で…。

それを想像すると
また新たな欲が首をもたげた。

「見過ぎ…。」

そう指摘し、目を開けると
慌てて空を見上げる桃がいた。

動きがぎこちなくて笑える。

おいおい、
それで誤魔化したつもりか?

ほんとにこいつは
からかいがいのある奴だ。

犬や猫より
よっぽど…


一瞬、
“可愛い”
という単語が浮かんで、
俺も桃を笑えないぐらいぎこちなく空を見上げる。




雨雲がかなり広がっていた。

「降ってきそうだな。」

そう言うと、
桃の顔がこの空のように曇っていった。


―お前の方が先に降りだしそうだな…―


その言葉は

口に出さないでおこう。


 ぽちりに感謝カンゲキ雨嵐<(_ _*)>



 

やさしい雨22.40

俺が言った言葉に
過剰なほど反応する桃。

「へっっ!?ち、違います!!!」

否定しながら俺のもとに駆け寄る。

その、必死な様子が
イライラを加速させる。

まさか、図星…?

昂り続ける心を鎮めるように
タバコに火をつけた…。

「あ、あのっっ!キティちゃんお好きなんですか?」

何だ?
そのキティとやらは…。

意味不明の為、

無視!




俺の返答が無かったからか、
不安げに瞳を揺らす桃。

それにしても…

いつまで顔を赤くしてるんだ(怒)

これ以上
俺様をイラつかせるな!




「顔が赤いな…。田辺のせいか?」




イライラが頂点に達した時、
桃の小さな手に
唇を押しあてていた…。




桃の体がぶるっと震える。

でも、逃すつもりはない。




指先まで染まってゆく…。




「今度は俺のせいだな。」




さっきまでのイライラが
嘘のように消えていた。




「…なぜ…ですか?」

絞り出すような声…。

「なぜ?」

こんな行為に
答えが要るのか?

それならば、


 さらに、
 熱く
 強く
 唇を押しあて…


「お前が、おもしろい反応をするからだ。」


そう、答えてやるさ。




「へぇっっ?」

桃は間抜けな声を発して
口をぽかんと開けた。

だが、数秒後
少しだけ表情に怒りが混ざる。

人間はこんなにも
感情豊かな生き物だったんだな。

タバコを燻らせながら
しばらく観察していると、
桃の顔から怒りが消えていった。


…つまらん。

もっと俺を楽しませろ、桃。




「唇を奪ったら…」

そのひと言で
また新たな表情が生まれた。

何を想像してるのか手に取るようにわかる。

おもしろいやつ(笑)


だが…


「お前…、確実に死ぬな。」


唇には触れてやらない。

さぁ、どうする?

どんな顔を見せる?




いつのまにか
桃との時間を楽しんでいる自分がいた。




雨の匂いは
ゆっくりと濃度を増してゆく…。


 ぽちりに感謝カンゲキ雨嵐<(_ _*)>




やさしい雨22.30

桃はやっぱり屋上に来ていた。

赤く染まったの頬のまま
扉の前にいる。


全然、似てないじゃないか…。

何を言ってるんだ、田辺は。

大体、
こいつと会うとろくなことが無い。


こみ上げてくるイライラが
全身を支配していった。




扉を開けたままで
屋上に入る。

だが、
声はかけてやらなかった。

あいつは、来るのか…。

来れば
俺のイライラの捌け口になるというのに…。




ベンチに仰向けになり、
タバコを咥える。

程なく、ドアが閉まる音がして
足音が聞こえた。




古いはしごの軋む音が止むと
湿った空気の中に人の気配を感じた。

気配だけで、
戸惑っているのがわかる。


しばらく、放っておくか…。


それとも…。


ちらと視線を向けると
赤い顔で俯いている。

未だに熱を保つ桃色の頬が
俺の気持ちを逆なでした。

そして思わず、




「お前はああいうのが好みなのか。」




そんな陳腐なセリフを吐いてしまった。




…そう言えば、
さっき田辺にも言ったな、これ。


 ぽちりに感謝カンゲキ雨嵐<(_ _*)>



 

やさしい雨22.20

「だからでしょ?あの子の世話を焼くのは。」

その場で動きを止めた俺を見て、
焦ることなく話を続ける田辺。

「2人を見てたら、僕も変な気になっちゃったよ。
 恭はさりげなくマコの世話を焼いて、
 そんな恭の側にいつもいたマコ。
 そして僕は、
 仲が良すぎる恭とマコをからかって…。」

「もういい。やめろ。」

制するつもりの言葉には
どこが力が無かった。

「向き合ってみれば?
 あの子にも、
 過去の自分にも…。」




外に出ると
空気に雨の匂いが混ざり合っていた。

雨の匂い…

あいつも嗅ぎ分けられた特殊な匂い。




   「恭!もうすぐ来るよね。」

   「だな。あと30分ってとこか?」

   「えーー!何?何?
    また2人だけ仲良くしちゃってぇ!」

   「ふくれるな、田辺。」

   「そうだよ、薫ちゃん。
    カヲルなのに雨の匂いがわからないなんてねぇ(笑)」

   「マコーーー。後で覚えてろよぉ。」




遠い記憶。

でも、
決して忘れることの出来ない記憶。




向きあう?

そんな事をして何になる…。




田辺の吐いた言葉を否定しながらも
あの屋上にまっすぐ歩いている俺は




何だ…。


 ぽちりに感謝カンゲキ雨嵐<(_ _*)>



 

やさしい雨22.10

「恭!あの子、何なの?」

興奮気味の田辺の声が部屋にうるさく響いた。

「田辺…。
 お前、いつからああいうのが趣味になったんだ?」

ドアにもたれたままの姿勢で
なるべく嫌味に聞こえるように質問を返した。

「いまさぁ、逃げたよね?
 ちょっとキスしただけでさぁ!
 希少動物だよ!
 天然記念物だよ!!!」

無視かよっっ!

しかも、
本ばかり読んでるくせに、
どんだけ支離滅裂なんだ。

「顔はさぁ、普通なんだけど、
 いや、他も普通なんだけど、
 背は普通よりかなり小さいけど…」

もう、手がつけられん…。

「細い肩に、柔らかそうな色素の薄いネコっ毛が
 ふわっとかかってて…
 あれはセミロングって言うのかな?
 うん。あとでヘアカタ見てみよう!
 白い肌が羞恥で真っ赤に染まって、
 意外と色気も感じたり…。
 ねぇ、聞いてる、恭?」

そんなデカイ声出してりゃな(怒)

「でさ、似てるんだよね。
 みっちゃんに!」

「は?」

「みっちゃんだよぉ!
 小学生の頃好きだった、みっちゃん!
 想えば、あれが初恋だったなぁ…。」

知るか!!!

「もう、行くぞ。」

走って逃げていった
あいつの姿が目に焼き付いている。

なんとなく、
あそこにいる気がした。

きっと、
俺を待ってる…。




部屋を出ようと田辺に背を向けた時、
今までとは明らかに違う口調の言葉が
俺を追いかけてきた。




「マコにも…似てるよね。」




それは
俺の動きを止めるには
十分なひと言だった。


 ぽちりに感謝カンゲキ雨嵐<(_ _*)>



 

やさしい雨22

洗濯機で回されるはずだった白衣が
ベッドの上に横たわっている。

その横にボー然と座る私…。

右手には鍵、
左手にはメモを持って…。




「どうして…?」

はっきり声に出していう疑問符。

先生は、
いつの間にか
あの本の所在を調べてくれていて

いつの間にか
メモにメッセージを書いてくれていて

いつの間にか
私に鍵を渡す気になっていて…。


先生はスペアの鍵を持ってるんだろう。

だからって、
なぜこの鍵を私に?


「…意味がわかりません、せんせ。」

先生の白衣と添い寝するように
ベッドに横になった。




天井に向かって
メモをかざす。

白衣を私に落とす直前、
急いで書いたんだろうか?

その割には、
字に乱れは無い。

授業の時、
ホワイトボードを埋めていく文字も
美しく整っていて
先生らしいなと感心していた。

その字が
私だけに向けられたメッセージとなって
形作っている…。

そして、この鍵…。

これが、あれば
いつでも屋上に行けるし、
また先生に会える。

古ぼけた旧式の鍵が
まるで魔法の鍵のように
キラキラ輝いて見えた。


この鍵には
かわいいキーホルダーをつけよう!

メモはラミネートして…

そうだ!

先生が撮ったあの写真も
プリントして一緒に…。


未だ解決されないままの疑問符は取り残され、
幸せな妄想が部屋全体に広がる。

隣の大きな白衣に
そっと顔を埋めた。

先生の匂いが私を包む。

「二ノ宮せんせい…。」

そっと、名前をつぶやく…。

その声が妙に甘くて
自分の中に芽生えた女を感じた。


 ぽちりに感謝カンゲキ雨嵐<(_ _*)>



 

やさしい雨21

畳んだ白衣を胸に抱え、
夢見心地のまま家路をたどる。

普段厳しい先生が
時折私に向けてくれる優しさ…。

特別な存在にはなれなくても
好きでいることぐらいは許されるのだろうか。

家に着くまでに全身の火照りを鎮めたかったのに、
雨は微かに頬をくすぐるだけ…。




「ただいまぁ。」

小さく言いながら、
玄関のドアを開けると

「おかえりなさい。降られちゃったわね。」

リビングから
お母さんのスッキリした顔がのぞいた。

家中に美味しそうな匂いが漂っている。

「ヒマだったから、ご飯作っちゃったわよぉ。」

…あれ?

「桃が買ってきたものは明日…」

…何か忘れてる?

「って、何も買ってないみたいね(笑)」

「あああぁぁぁ!!!
 買い物してくるの忘れたぁ!!!」




―「今晩はお母さんの好きなもの作るから。」―

そう言って出かけたのに…。

玄関でしょんぼりしている私に、

「いいから。いいから。
 ごちそうは、また今度よろしくね!」

と優しく笑う。

「ごめんね、お母さん…。」

「もぉいいって!
 で?
 図書室で用事は済んだの?」




ええっと…

あの時、
本のタイトルがわかって…

でも、
田辺さんに××されて
部屋から逃げ出して…

そのあと…


ここでようやく
探していた本の行方を
探してなかったことに気付いた。


「…。」

「…。」

「…シャワー浴びてくれば?」

「…うん。」


ドジすぎる私も
流してしまおう(涙)




部屋にバッグを置き
白衣を持ったまま浴室に向かう。

クリーニングに出した方が
いいのかも知れないけど…。

脱衣場にある洗濯機を覗きこみ
他に何も入ってないことを確かめる。

なんとなく、
自分でちゃんと洗って返したかった。

タバコとか入ってないよね。

ネットに入れる前に
一応、ポケットに手を入れた。


ん?

なにかあるみたい…。


取り出してみると、
1枚のメモと
見覚えのある鍵…。


これって、
屋上の?


急いでメモを読むと


―あの本は貸し出し中だ。鍵は持っておけ。―


そう短く書かれていた。


 ぽちりに感謝カンゲキ雨嵐<(_ _*)>



 

やさしい雨20

先生の言葉を合図に
白衣の傘から顔を出す。

こんなにステキな偶然は
そう簡単には起こらない…。

“これから”のことを想うと
この空のように顔が曇ってゆく。

先生も立ち上がり
濡れた白衣を着ないまま、片腕にかけた。

そのまま動こうとしないのは
先に行けっていう意味だろうか。

「あの…それじゃ。」

肩を落とし、
はしごに向かう。

「すべるなよ。」

少し笑いを含んだ声が聞こえてきた。

「そんなにドジじゃないですよっっ!」

無理やり出した大きな声でそう答える。

私にできる精一杯の強がり…。




はしごを降り切り、上を見上げると
先生の顔が覗いていた。

…手、振るのはおかしいよね?

先生だし。

あらためて、自分が恋したのは
“先生”なんだと感じた。

それも、ずっと年上の…。

今の先生と私の距離、

はしごの上の先生と下の私より
…遠い。

さっきまで感じていた幸福感が
急激にしぼんでいく。

胸が苦しくなり、
鼻の奥がツンとした。




頬を濡らす雨粒より
大きな涙が落ちそうになった時、
バサッと何かが落ちてきた。


え?

なにっっ!?


「被って帰れ。」


上から降り注ぐ
温かい声。

私の頭をスッポリ覆ったそれは
先生の白衣だった。


 ぽちりに感謝カンゲキ雨嵐<(_ _*)>



 

やさしい雨19

触れ合った部分は
相変わらず熱いけど
ドキドキの中に
たしかな幸せを感じる。

好きな人と寄り添えるって
こんなに嬉しいことだったんだ。

白衣の傘の中は
先生の吐息まで聞こえそう…。

「寒くないか?」

そう聞いた先生の声は
今まででいちばん甘い。




「はい。大丈夫です。」

「そうか。」

今日の雨は不思議なほど温かかった。

さらさらと静かに落ち、
先生の声も
はっきりと聞かせてくれる。

そんな中、
次に聞こえた言葉は、

「あの写真なら、
 良いプレゼントになる。」

酷評を覚悟していた私には
すぐには理解できない言葉だった。




もしかして今、褒められたの?

信じられない気持ちで先生を見ると、
とても穏やかな顔で微笑んでいた。

「ん?けなして欲しかったのか?」

…出てきた言葉は
穏やかじゃないけど。




それからもう少しだけ
雨の中の会話は続いた。

「お前には料理の写真が向いてるのかもな。
 食い意地が張ってるせいか?」

とか

「一眼ならもっと自分の世界を表現できるぞ。
 お前には扱いきれないと思うが。」

とか

「白衣1枚でも、結構傘がわりになるな。
 お前が小さくて良かった。」

とか…

アメなんだか
ムチなんだか
よくわからない言葉を
有難く頂いた。




そして…

「じゃあ、そろそろ行くか。」

最も聞きたくなかった言葉が
雨の中に放たれた。


 ぽちりに感謝カンゲキ雨嵐<(_ _*)>



 

やさしい雨18

その笑顔は
少年のようだった。

いつもの何かを含んだ笑顔ではなく、
ただ
笑っていた。

どうして笑ったのか?
理由はわからないけど
そんな笑顔を見せてくれたことが嬉しくて
私も、笑った。




「つめたいっっ!」


その時、
私の瞳の近くに、
一粒の雨が…。

先生は自然に
美しい指を伸ばし、
その雨粒を掬う。

「予想的中だな。」

そう言って
さっきより華やかに

笑った。




降り出した雨は
ふたりの時間を壊さないように
遠慮がちに
やさしく
やさしく
落ちてゆく。




先生はおもむろに白衣を脱ぎ、
私の頭からかけると
ベンチに座った。

「大丈夫です!先生が濡れちゃうっっ!」

慌てて白衣を返そうとした私に、

「お前にかけたんじゃない、カメラにかけたんだ。」

そう一方の口の端を軽く上げ、
笑った。




それはいつもの先生で…

でも、
今までとは少し違う気がして…

もうちょっとだけ
白衣の傘を貸してもらうことにした。

そのかわり…

「やっぱり、先生が濡れちゃうから…。」

手を思いっきり伸ばして
先生の頭に白衣かける。

一瞬、驚いた顔をしたけど、
先生は何も言わず
ふたりで白衣の傘に収まった。


 ぽちりに感謝カンゲキ雨嵐<(_ _*)>



 

やさしい雨17

空の青は
ほとんど鼠色に浸食されてしまった。

先生と私を取り巻く世界は
何トーンも暗くなっている。




「…せんせ?二ノ宮先生?」

いく度目かの呼びかけで
いつもの色に戻った瞳。

「…ああ。」

まるで夢から覚めたばかりのように
辺りをぐるっと見渡し、
私のもとに戻ってきた。

先生の瞳に
私が映っている。

「そんな顔…するな。」

少し苦しそうに目を逸らし、
私の頭をくしゃくしゃっと撫でた。




私なら…

桃なら…

ドキドキで暴走しそうなこの場面。

でも、鼠色の雲のように広がった不安が
ドキドキさえも覆い隠していた。




ゆっくりとカメラに視線を移し、
残りの写真を見ていく先生。

その表情は…何もない。

感情を押し殺そうとしているのか、
美しく
無機質な
氷の様な表情だった。




私の膝の上へカメラを返すと、
立ち上がり、
ポケットからタバコを取り出す。

写真に関する言葉は無かった。




―もう、終わりだ―




先生の背中が
ふたりの時間の終わりを告げているような気がして、
性急に言葉を探す。




「せんせ…雨のにおいしますね。」




なんて、
場にそぐわないチョイスをしてしまったんだろう!

言った側から後悔し、
恥ずかしさで頬を熱くした。




でも…

「そうだな。」

そう、先生は

笑った。


 ぽちりに感謝カンゲキ雨嵐<(_ _*)>



 

やさしい雨16

どんな、けなされ方をするんだろう。

じっと隣で審判を待つ…。

ひと品につき2枚以上は撮ったから
軽く100枚は超えている写真を
1枚1枚丁寧に見ていく先生。

さらっと流されると思ったんだけど、
ちょっと意外。




最初の画面は“最後”に撮ったもので
愛未が無理やりお客さんにオーダーをとったもの。

後の写真になればなるほど
定番のメニューの写真になっている。

ママの店は常連客が多いせいか
定番メニューに注文が集中する。

品数はかなりのものなんだけど
何日もオーダーが入らないかわいそうなコも結構いる。

どれもお母さんの自信作なだけに
久しぶりに注文された時なんかは
小さくガッツポーズしちゃったり。

いつか、先生にも
ウチの料理食べてもらいたいなぁ。

何が好きなんだろ?

ハンバーグとか
オムライスとかは
ちょっと似合わないかも(笑)

やっぱり、フランス料理的な…




いつの間にか下を向き、
妄想の世界に入り込んでいた私は
先生の手が止まってることに気付いていなかった。




視線を感じて
ふと先生を見上げると
はじめて見る瞳で私を捉えている。




いや、

はじめてじゃない…。




一面花びらで埋め尽くされた桃色の写真…。

その前で泣いていた私を捉えた先生の瞳。




そう、
あの時と同じ…。




言い知れない不安の雲が
胸いっぱいに広がっていった。




「せんせ…?」




小さく呼びかけてみる。




「…」




先生の唇が微かに動いて
何かをつぶやいた気がしたけど

その言葉は
私の耳には届かなかった。


 ぽちりに感謝カンゲキ雨嵐<(_ _*)>




やさしい雨15

先生をみつめていた自分を誤魔化すように
あわてて空を見上げた。

さっきまで青が占めていたのに
鼠色の雲がかかっている。

干してきた洗濯もののことが気になった。

お母さん、もう起きたかなぁ…。

雨のにおいがする…。




「降ってきそうだな。」

先生が低く言った。

雨が落ちてくれば
先生も屋上にはいないだろう。

さっきまでゆっくり流れていた時間が
急に早送りされていく。

もう少し、
側にいたい…。

「あ、あの。せんせ?」

「…。」

言葉は無いけど視線を向けてくれた先生に
カメラを差し出す。

「昨日、ウチの料理、色々撮ってみたんです!
 見てもらえますか?」

「…。」

やはり、言葉は無い。

いきなりで変に思われたかな?

カメラを差し出した手が
宙に浮いたままで恥ずかしい。

ふるふると震えてくるのがわかったけど
ひっこめることも出来ずに
…俯く。




長い沈黙の後、
突然、私の手からカメラの重さが消えた。

え?と先生を見上げると、
くいっと中指で眼鏡を上げ、
口の端だけで笑った。

「お前…、
 けなされて喜ぶタイプなのか?」




なんだか、おかしな誤解をされてるけど、
もう少し先生といたいから
否定をするのは後にしよう。


 ぽちりに感謝カンゲキ雨嵐<(_ _*)>



 

やさしい雨14

先生→田辺さん→先生と続いた
ドキドキの嵐で
学校に来て1時間も経ってないのに疲労困憊…。

「あの、座ってもいいですか?」

「…」

返事が無いので
だまって横に座った。

今までの私だったら
拒否だと受け止めて
立ったままでいただろうな。




考えてみると
男の人が大の苦手だった私。

原因は…
正直よくわからない。

お母さんに言わせると
「家に男がいないからねー。」
なんだけど、
そういう家庭はウチだけじゃないと思うし。

ただでさえ、引っ込み思案な性格で
女の子の友達を作るのもひと苦労。

男の子と仲良くなるなんて

…皆無だった。




先生はベンチの背にもたれて
目を閉じている。

睫毛、長いなぁ…。

ちょっとたれ目なんだ(笑)

見られてないという安心感から
思いっきり凝視。

あの唇が…。

手に残る感触に
またひとり、頬を染める…。

その唇に触れられるタバコを
羨ましいとさえ思う。

そんな内なる感情を悟ったかのように
先生の唇が動き

「見過ぎ…。」

と音を発した。

 ぽちりに感謝カンゲキ雨嵐<(_ _*)>



 

やさしい雨13

まわりの景色も

先生も

私も

すべての世界が

スローモーションのように

ゆっくり

やさしく

流れていった。




指先に微かに触れる先生の唇は
とっても冷たいのに
そこから不思議な熱が全身を駆け巡る。

先生はそのまま
上目使いで私を見て

「今度は俺のせいだな。」

そう、妖しく笑った。




「…なぜ…ですか?」

やっと出た言葉は
か細く震えて、
私の気持ちを支えきれない。

「なぜ?」

先生はフフンと鼻で笑って
さっきよりも強く
指先に唇をあてた。

たった数秒なんだろう…。

でも、私には
永遠にすら感じた。

「お前が…」

胸が苦しい。

呼吸がうまく出来ない。

「おもしろい反応をするからだ。」

「へぇっっ?」

気の抜けた(しかもマヌケな)返事とともに
一気に息を吐き出す。

おもしろいって
どういうことですかっっ(怒)

先生は私の手を離し、
タバコを口に咥えた。

目を細めて火を点ける。

ひとつひとつの動きに目を奪われ
怒りの感情は
あえなく鎮火…。


「唇を奪ったら…」

え?

くちびる?

あり得ない情景を一瞬で思い描いて
パワーアップしたドキドキが再始動!




「お前…
 確実に死ぬな。」




「…」




おもしろがってるんだ…先生。


ああ、
涙が出そう…。


 ぽちりに感謝カンゲキ雨嵐<(_ _*)>



 

やさしい雨12

屋上の『屋上』にいた先生は
想像通りの格好で
上がってきた私に一瞥もくれず
ひたすら空に煙を吐き出し続けた。


先生が鍵を持ってるってことは
ここに他の人は来ない?

私も来ちゃいけなかったんだろうか…。

―「来る時は1人で来い。」―

そうは、言ってくれたけど…

でも…。


流れる沈黙の時間に
後ろ向きの感情が膨らんでゆく。

所在無く、
はしごの前でうつむく私…。


「お前はああいうのが好みなのか。」


沈黙を破ったのは
先生のそんなひと言だった。




「へっっ!?ち、違います!!!」

ベンチに駆け寄り、
私にしてはめずらしく力強く否定!

でも、それに対する先生の言葉は無かった。

またしても流れる沈黙…。

新しいタバコに火が点けられる。

ふと、ライターの柄が目に飛び込んできた。

この前、私に投げたあのライターだ。

キティちゃんの…。

「あ、あのっっ!キティちゃんお好きなんですか?」

我ながらアホな質問だったと思う。

ただ、沈黙をどうにかしたかった。

「…」

もちろん、先生は何も答えず、
一瞬、視線を向けただけ…。


ど、どうしよ。

帰るべき?

とりあえずベンチから離れる?


先生の近くにいるだけでドキドキなのに
妙な誤解までされて、
私にはハードルが高すぎる状況だった。

色々考えた末に一歩足を引いた、
まさにその時
先生がおもむろに体を起こした。

びくっと動きを止めた私の手を取り、

「顔が赤いな…。田辺のせいか?」

そう言って、

そして…

そして…

唇をよせた…。


 ぽちりに感謝カンゲキ雨嵐<(_ _*)>



 

やさしい雨11

図書館から逃げるように飛び出した私は
中庭を通り、あの屋上に向かう。

熱を持った体と頭を冷ましたかった。

階段を昇り切った先には
生徒立入禁止のプレート。

そうだった。

先生がいないと開かない扉だったんだ…。

引き返そうと肩を落として振り向いた時、
階段を昇ってくる先生が見えた。

さっきまでと違う熱が
全身を支配する。

「…」

私を視界に納めても
先生は何も言わない…。

眼鏡の奥の瞳からは
感情が読み取れなかった。

白衣のポケットから取り出した鍵で扉を開ける。

一緒に行ってもいいんだろうか…。

躊躇して足が前に出ない…。

先生は扉を開け放ったままで
屋上に入ってゆく…。

まるで、

―来たいなら来ればいい―

って言ってくれてるみたいに…。




せんせいがすき


そう、わかってしまったら
今まで以上に
先生に会うのが恥ずかしい…。

でも、
少しでも側にいたい…。

時間を共有したい…。

先生のことが知りたい…。


これが、恋…なんだ。




扉を閉めて屋上に入ると
先生の姿は無かった。

そのかわりに
空に向かって立ち上る一本の煙…。

ベンチに寝ころび
タバコを燻らせている先生が想像できた。

あそこまで上がってもいいのかなぁ…。

何をするにも1回立ち止まる。

そんな自分がすっごく嫌い。

意を決して、はしごをのぼる。

今度は踏み外さないように…。


 ぽちりに感謝カンゲキ雨嵐<(_ _*)>



 

やさしい雨10

私、今
湯気が出てるかも…。

田辺さんが言ったひとことで
頭が一瞬にしてスパーク!

顔だけじゃなくて
頭皮まで熱い…。

「ね?どぉ?俺は恭より優しいよ。」

「あの…わたしは…」

ん?

私、何を言おうとしてるの?

―わたしはせんせいがすきなんです―

そうなの?

いままでモヤモヤしていた感情が
こんなきっかけではっきりするなんて…。

「ん?大丈夫、桃ちゃん?
 刺激が強すぎた?」

きれいな顔で覗き込む田辺さん。

先生とは違う香りがする…。

「あの…わたしは…」

わたしは…

「はい!ストップ!!!
 ごめん、ごめん!ちょっと冗談が過ぎたね。」

ほぇ?

冗談?

すっかり固まる私の耳元に唇をよせて

「告白は本人にしないと。」

と、囁いた。




思わず田辺さんの方を見ると
唇が触れあいそうな至近距離に!

驚いて飛び退こうとしたとき、

「なにをいちゃついてるんだ(怒)」

腕組みをしてドアにもたれかかっている先生がいた。

え?

いつから?

今の聞こえてないよね?

あわあわと見苦しく焦る私を気にせず、
田辺さんは笑顔で話し続ける。

「桃ちゃんはさぁ、子ウサギみたいでかわいいんだけど、
 俺、ホントは大人の女が好みなの。
 たとえば、さき…」

「お前の嗜好は聞いてない。いくぞ、桃。」

あからさまに、話を切られた田辺さんは
先生を無視して、私に近づいた。

「まぁ、いちどぐらいは年下もいいかもねぇ。
 気が変わったら、いつでもおいで。」

そう言って、私の頭のてっぺんにキスをした。


 ぽちりに感謝カンゲキ雨嵐<(_ _*)>



 

やさしい雨09

それから程なく、
本のタイトルが判明した。


『優しい時間のつくりかた』


カフェなんてひと言も入ってない…。

先生の目が
なんで、こんな特徴あるタイトルを忘れるんだ…
って言ってる気がする。

「さ、行くぞ。」

手にしていた本を置き
部屋を出ていく先生。

「なんだよ!勝手だな(怒)
 もう、来んなよ!!!」

先生の背中に叫ぶ田辺さん。

「あ、あの。ありがとうございました!」

ぺこりとお辞儀をして
先生の後を追い駆けようとした時

「ちょっと待って!」

田辺さんに呼び止められた。

先生が行っちゃうっっ!

突然訪れた幸せな偶然を
このまま終わらせたくないと焦る私に

「ねぇ、君って恭の何?恋人?」

耳を疑うような質問が飛んできた。




「ち、違いますっっ!!!」
 ただの、生徒です!」

「だよねー。」

そう、簡単に納得されると…(涙)

「でも…」

でも?

「恭が人の世話を焼くとこなんて
 軽く10年は見てないんだよねぇ。」

「え?」

「あ、俺と恭ね、ここの同期生なの。
 くされ縁てヤツ。」

「うそっっ!!!てっきり…」

その先を言いかけて、ハッと口をつぐむ。

「年下だと思ったんでしょ?童顔だから。」

田辺さんの顔がみるみる曇っていった。

「あの…。あの…。ごめんなさいっっ!!!」

さっきの先生との会話で
田辺さんが童顔を気にしてるってわかってたのに…

申し訳なくって顔があげられない。

ここに来てから散々迷惑かけたうえに、
傷つけるようなことを言う私ってサイテー!!!

あ、ダメ…。

泣きそう…。


「ぷぷぷ」

ん?

「ぷーーー!!!」

んんん???

田辺さんが笑ってる!?

しかも、お腹を抱えて。

「桃ちゃん、かわいすぎ!
 気にしてないから、顔あげて。」

なに?

どうして笑ってるの?

「いるんだね、まだ。こんな純粋なコが。
 恭じゃなくても気になるわ、これは」

訳がわからなくて、ぽかんとしてる私に

「ねぇ、恭はやめて、俺と付き合わない?」

目線をしっかり合わせてそう言った。


 ぽちりに感謝カンゲキ雨嵐<(_ _*)>



 

やさしい雨08

「ふーーーん。カフェ経営の本ね。
 何冊か置いてあるんだけど、特徴は?」

田辺さんはマグカップにコーヒー注ぎながら言った。

特徴…。

「えっと。
 表紙がすごくきれいで、
 写真が多くて、
 メニュー表の作り方も載ってて…」

「桃ちゃんだっけ?
 カフェについての本って大抵そんな感じなんだけど(笑)
 まぁ、コーヒーでもどうぞ。」

コーヒーの香ばしい匂いが鼻をくすぐる。

「あ、ありがとうございます。」

先生をチラリと見ると、
コーヒーを飲みながら、本をパラパラとめくっている。

ブラックで飲むんだ…。

またひとつ、先生のことを知った。

先生の喉を潤していく同じ飲み物をひとくち…

に、にがっっ!!!

あまりの大人な味に
それ以上口をつけることが出来ない。

せっかく、淹れてくれたのにどうしよう…。

お砂糖とミルクくださいなんて言ったら、
子供っぽいって思われちゃうよね…。

マグカップを両手で持ったまま、あれこれ考えていると

「おい、田辺。このコに砂糖とミルク出してやってくれ。」

と、先生が言った。

どうして、わかったの?

目を丸くして先生を見ると、
相変わらず視線は本に向いたまま…。


濃い茶色のコーヒーに
白いミルクが溶け込んでゆく。

口をつけると
優しい味に変わっていた。

コーヒーにミルク…

あっっ!

ぼんやりとした記憶が
突然鮮明に蘇る。

「あのっっ!
 表紙がウサギのラテアートでした!」

「な、なに!いきなりっっ!」

「さっきの本のことだ。
 いいから、考えろ田辺。」

先生のその言葉に
田辺さんの頬が再びぷーっと膨れた。


 ぽちりに感謝カンゲキ雨嵐<(_ _*)>




やさしい雨07

童顔でワイルドな田辺さんは
先生とは違うタイプのハンサムさんで
ふたりが並ぶと圧巻!

どういう関係なんだろ?

「こいつはなバカがつくほどの本の虫で
 ここに所蔵されている本のことはすべて把握してる、
 なんとも気持ち悪いヤツだ。」

「気持ち悪いってなんだよ!」

「気持ち悪いだろ。そのピアスとか。」

「かっこいいの間違いだろ!ね、君?」

「えっっ!?」

急に振られて、心臓が跳ねあがる。

「あ…あの…。」

「なぁに?このコ。顔、真っ赤じゃん!
 かーーーわいいーーー♪」

そう言いながら田辺さんは私の頬に手を伸ばした。

触られるっっ!と身を硬くした瞬間、
先生が彼の手を掴み、ぎりりと強く握った。

「いててて!やめろ、恭!」

「ふん。むやみに触ろうとするからだ。」

「なんだよー。いいじゃん、ほっぺ触るぐらいー。」

田辺さんはブツブツ言いながら、右手を摩る。

よくわからないけど…、
私、先生に守られたのかな?




「もーーー!読書の邪魔された上にこれって、気分悪いよ!
 探してる本があるんでしょ?
 さっさと特徴言って、とっとと帰ってくれる?」

ぷーっと頬を膨らませて怒る田辺さんは
なんだかすっごくかわいくて、
怒られてるのに全然怖くない。

「お前、それで怒ってるつもりか?」

私の気持ちそのまんま、
先生が口にした。

「怒ってるよ!見ればわかるでしょ?」

「わからん、全く。」

先生がたくさんしゃべってる。

しかも、ツッコミ?

意外な一面に出会えて

嬉しくて

可笑しくて

いつの間にか自然に笑っていた。

「あ!笑った。ひどいなーーー!」

そう言った田辺さんも、

笑っていた。


 ぽちりに感謝カンゲキ雨嵐<(_ _*)>



 

やさしい雨06

奥の部屋は
本、本、本…。

長机の上に不安定な形で積まれた本が
いくつもの山を作っていた。

その本の山から
ゆらりと影が動き

「うるさいぞ、恭(怒)」

と声を発した。




その後のことは、

見るも涙…

語るも涙…

(使い方間違ってる?)




「きゃあっっ!」

動き出した影に驚き、
思わずよろめいてしまった私は、
本のひとやまに激突。

そしてそこから、
ドミノのごとくすべての山を崩していった。

「「「…」」」

すっかり拓けた部屋の中で
唖然とする3人。

「お前…、これをどう始末つけるつもりだ?」

「どうしましょう?」

「知るか(怒)」

(´;ω;`)ウゥゥ…




「で、今日は何しにきたんだ、恭?」

「その呼び方はやめろ。」

ふたりの会話が始まっても、
私はまだ、崩した山を直していた。

「ああ君、適当でいいからね。」

田辺さんと呼ばれたその人は
先生と同じ白衣姿なんだけど、
その下はタンクトップに迷彩柄のカーゴパンツ、
短めの金髪にピアスという出で立ちで
なんだかとてつもなくワイルド。

でも、

でも、

顔が…

「おい、桃。この童顔野郎にその本のことを説明しろ。」

「恭!それは言わない約束だろう!!!」

そう、

すっごく童顔なんです。


 ぽちりに感謝カンゲキ雨嵐<(_ _*)>



 

やさしい雨05

「はぁ?本のタイトルを一文字も覚えてないだと!?」

今ここで
長々とこうしてる理由を話した結果…

「チッッ…。」

舌打ちです(涙)

「カフェの本だから、そのぐらいは入ってるかなぁって…。」

「…(怒)」

言い訳が空しく空回り…。

すると、

「ちょっと来い。」

と、私の腕を引き
カウンターの中へズンズンと入っていく先生。

「えーーー?!」

「なに、あれ?」

学生たちの声が聞こえる。

なに、あれ?ってコッチが聞きたいよぉ!




カウンターの中は様々な書物で溢れかえっていた。

おそらく、返却された本たちなのだろう。

その間を奥へ奥へと進む先生。

もちろん、
私の腕を引いたまま…。

そしてそのまま、
最奥にある部屋のノブを回した。




こんなところまで
勝手に入ってきていいのかと不安になり

「あの…せんせ?」

と問いかけるけど…

100%無視。

そのかわりに

「おい!田辺はいるか?」

と、別の誰かに声をかけた。


 ぽちりに感謝カンゲキ雨嵐<(_ _*)>



 

やさしい雨04

「せ、せんせいっっ!」

白衣姿で仁王立ち…
(プラス眉間に皺)

それは紛れもなく二ノ宮先生だった。

「お前はいつも俺をイライラさせる。」

そう言って、
色っぽく髪をかき上げる姿に
目を奪われ…

「おい。そこでボーっとするだけなら代われ。」

「は、はいっっ!」

そそくさとカニ歩きで横に移動すると
返却カウンターの真ん前。

本を数冊抱えた学生の前に割り込む形になった。

「「あのー(怒)」」

学生さんとカウンター職員さんに同時につっこまれ、

「あっ!ごめんなさいっっ!!!」

と、これでもかってほどオロオロ。

その時、
先生に腕を掴まれ…

引き寄せられた。

突然のことで勢いがついたまま
白衣に顔をうずめてしまう。

「…バカか、お前は。」

タバコと消毒液の匂い…。

周りのざわめきが聞こえた。

でも、
動けない…。

動きたくない…。

私、
どうしちゃったんだろ…。

男の人の温もりを感じたいなんて…。


「で、お前は何を探してたんだ?」

「え?あ、はい。あの…。」


冷静に質問されて、現実に引き戻される心…。

そっと先生から体を離す。

先生の細く長い指が
PCを躊躇なく操作してゆく。


先生は知らないんだ。

たったこれだけのことで
こんなにドキドキしてることを。


体の距離より、遥かに遠い心の距離を
縮める術を私は知らない…。


 ぽちりに感謝カンゲキ雨嵐<(_ _*)>



 

やさしい雨03

「あれ?無い…。」

今日のお目当ての本は
前回来た時にたまたま見つけた、
カフェ経営のハウツー本。

メニュー表のデザインが
何点か載ってたのを思い出し、
参考にしようと来館した。

ここにあったと思ったんだけど…。

レシピや経営術が書かれた本が
ずらりと並ぶ棚の中で
美しい装丁のその本はひときわ目立っていた。

見ればわかるんだけど、
借りられちゃってるのかな?

えーーーっとこういうときは…

入り口付近にある
蔵書の状況が検索できるPCに向かう。

数台設置されているPCは
学生や職員でほぼ埋まり、
返却カウンターのすぐ隣の台だけ空いていた。

このPCは
タイトル、著者、出版社、分野から
置いてある場所や貸出状況などが検索できる。

できるんだけど…

タイトルなんだっけ?

残念ながら私は
ぱらぱらとしか見ていない本のタイトルを
記憶する力は持ち合わせてない(涙)

仕方ないので
『カフェ』とだけ入力し、検索をかけてみたけど
びっくりする件数がヒットしてしまった。

こ、こんなにあるの!?

とりあえずひとつずつ表紙を確認するが
お目当ての本にはなかなか出会えない…。

無情にも過ぎていく時間。

カウンターにいる職員さんの視線が痛い。

それに、

なんだか後ろからすっごいプレッシャーが…。

順番を待ってる学生だろうか
(怖くて振り向けないしっっ!)
 
と、とにかく
早くしなきゃっっ!

焦りつつ『次ページ』をクリック。

その途端、

プツッッ…

え?

が、画面が

…きえた。


「お前…いい加減にしろ(怒)」


後ろから聞こえたその声は
私が今いちばん聞きたい声だった。


 ぽちりに感謝カンゲキ雨嵐<(_ _*)>



 

やさしい雨02

わが校の図書室は
『図書室』というより『図書館』。

附属病院の関係者も利用するため
マニアックなものまで細やかに揃えてある。

構内で1番背の高い建物なので
さすがの私でもすんなりとたどりつけた。

学生証を提示して中に入ると、
館内は意外なほどの込み合い様。

みんな、日曜日なのに
勉強しにくるんだぁ。

同じ学生として若干の焦りを感じる。

私がここに来る時といえば
買いそこねた週刊誌を読みに来る時ぐらい…。

ふと、机の上に置きっぱなしになってる
書きかけのレポートを思い出した。

あれ、持ってくればよかったかな…。

ここに来てやっと、
そんな考えが過るということは
今日の来館も勉強のためではないということだった。



 ぽちりに感謝カンゲキ雨嵐<(_ _*)>





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