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出会いはサイテー、サイアクで…6

教室に入った優太くんは
何もかもを吹き飛ばすような
元気いっぱいの声で、


「僕の名前は中村優太。
 こっちのちっちゃい子は
 白石桃ちゃん。
 僕は女の子を大切にする男だから、
 迷子になってた子猫ちゃんを
 エスコートしてきましたー♪」


そう言って、
ピースサインを両手で作った。

屈託のない笑顔と
大胆な言い訳に
どこからともなく
クスクスと笑いが起こる。

でも、
担任と思われる壇上の先生に、


「白石さんは
 迷子で遅刻っていうのはわかったけれど、
 その迷子とそこで会うってことは、
 あなたは完全に遅刻してたのね、中村君?」


と透かさず指摘され、


「あは♪バレちゃいました?」


舌をぺろりと出して、照れ笑い。

これには
さすがの先生までも破顔した。

こんなキュートな笑顔を見せられたら、
鬼ヶ島の鬼だって
戦わずして降参しちゃうと思う。

お陰で、
遅刻のお小言は
ほんのちょっぴりで済んでしまった。




誰もが緊張する入学式の日。

このクラスは
笑顔で溢れていた。

優太くんを中心にして。


「桃ちゃん、ヨロシクね!」

「桃ちゃん、入学早々大変だったね(笑)」


私にもどんどん声がかけられる。


「うん。こちらこそ、ヨロシクね!」

「どうもありがとう!」


私もどんどん返事をする。

そしていつの間にか、
笑顔の輪の中に入っていた。


 ―僕に任せて。
  大丈夫。悪いようにしない。―


教室に入る前、
優太くんがかけてくれた言葉。

まさかここまで
“良い”ようになるなんて…。

振り返って
優太くんの席の方を見ると
視線に気付いたのか
ニッコリと笑ってくれた。

私は優太くんの瞳に向かって
唇だけで「ありがとう」と伝える。

できるかぎりの笑顔とともに…。

そのお返しは
誰もが蕩けるようなウインクだった。








「ふぅ。
 まだまだ、順番来そうにないね…。」

「うん。」

「先にお昼にすれば良かったぁ。」

「はは、そうだね。」


入学式とオリエンテーションで
短大初日は終了。

愛未と私はその足で、
授業で使う教科書や参考書を買いに
指定の書店に来ていた。

授業が始まる明後日までに
揃えておかなくてはならない為、
指定の書店―多治見書房―の店内は
聖マリアンヌの生徒で溢れていた。


「まぁ、良かったじゃん。
 遅刻すれども怒られず、
 イケメンまで釣り上げたんだから。」


教科書販売用の仮設レジの列に並びながら、
優太くんとの出会いや
教室での出来事を愛未に話したら、
身も蓋も無いようなひと言が返ってきた。


「釣り上げたってっっ!言い方ひどい!」

「私は褒めてんの。
 桃にしては良くやったってね。
 だってさ、短大内で
 男子、しかも、イケメンと友達になれる確率って
 相当低いと思うよ。」

「優太くんはクラス全員と友達になったの!
 みんなに優しいの!」

「…そんなにムキになんなくても。
 逆に怪しいって。
 もしかして、惚れた?」

「っっ!?」


余りにも唐突な質問に
一瞬で耳まで赤くなる。

取り敢えず否定しなきゃと
口を開きかけた時、
さらに信じられない質問が…。


「ん?そうなの?好きになっちゃった?」


それはいつの間にかすぐ後ろにいた
優太くんからのものだった。




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出会いはサイテー、サイアクで…5

ふぅん。

ユータって言うのか。

ユータ…、

ユータ…、

かぁいいな(てへ♡)

でもよぉ、
結局あの女が、


「え…と、食物学科がある棟ってどこですか?」


とかしおらしく聞きやがるから、
優しいユータは…

優しい、
ユータ…


「!?」


おおっとヒラメイタ!!

多分、
ユータってこう書くんだな。

“優”しく握れば“太”く硬くなっちゃう
イケないバンビ『優太』くん♪

へへ、
俺って何気に天才?




あ~あ、しっかし残念だ!

あのチンケな女さえいなければ、
俺がさらって(太く硬くして)やったのに。

なんでか、優太の方が
女の手ぇ握って行っちまいやがった。

くそ!

俺より先に
バンビの手の感触を味わうなんて…、
マジで許せねぇ。

今度、周りをうろついてたら、
淫乱女だっつってネットに流してやる。

確か、
モモって言ってたな。

モモか…

多分、
『桃』って書くんだろうな…。


「…―――」


ま、
どぉでもいいけどさ。








「よし、行こう!」

「え?」




柔らかい笑顔に背中を押されて、


「え…と、食物学科がある棟ってどこですか?」


そう聞いた私の手を取り、
優太くんは走り出した。


「え!?あ、あのっっ!」

「俺もそこに行くから。
 一緒に、ね。」

「あ…、はい。
 いえ、あの、でも…」


手…
繋がなきゃいけないのかな?

とは聞けずに、
されるがままに…走った。

途中、優太くんは、
何かを気にするように
数回後ろを見ていたけれど、
私と視線が合うと
ただニッコリと笑うだけ。

やがて、校舎の中に入ると、


「ありがとう。」


なぜか、お礼を言って、
手を離してくれた。

お礼を言うのは
コッチなのに…。




『食物学科A』


そう書かれた教室のドアの前に
ふたりで立っている。

遅刻している身としては入りにくい…、
のが当たり前なんだけど、
不思議と私は落ち着いていた。




「桃ちゃんは白石だからAクラスだよね?」

「はい。」

「じゃあ、今日からクラスメイトだ。」

「え?」

「ヨロシクね♪」




心強い“仲間”が隣にいるから。

男の子が短大の食物学科って
珍しい組み合わせのような気がするけど、
今はその選択に心から感謝!

ひとりじゃ、このドアは
開けられなかったと思うから…。




「僕に任せて。
 大丈夫。悪いようにしない。」

「はい。」

「じゃなくて?」

「う…ん?」

「よく出来ましたぁ♪
 じゃあ、開けるよ?」

「…うん!」




そして、優太くんは
教室のドアを勢いよく開けた。





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出会いはサイテー、サイアクで…4

「マジで、あり得ねぇ!」


くそ!俺としたことが!

メモリーカードの予備、忘れるかよ!

変な女がいなくなって、
やっとこれからっつー時にさぁ!


「…戻るか、部室。」


四の五の言ってても仕方ねぇ。

時は待っちゃくれねぇし、
今を逃したら、
あの桜には二度と会えない。

…そう。

失ったものはカエラナイ。

時間も人も…。




並木道を横切り、
短大のエリアを抜けるルートが、
部室への近道だ。

木の根元に置いていた機材を
アルミケースに入れ、肩に担ぐ。

首から下げた一眼と合わせれば
かなりの重量だが、
気にせず走り出した。

その途端、


「わっっ!」

「―――っっ!?」


目の前に何かが飛び出してきた。




「あ、危ねぇ!
 このカメラ、いくらすると思ってんだよ!」

「ご、ごめんなさい。」

「!」


間一髪で身をかわし、
衝突を免れたそれは…、

俺の大好物だった。




なんだ?
この、とびきり可愛い生き物は…。

華奢な体に
色白の肌。

茶色の柔らかそうな髪が
黒目がちの瞳にかかって…。

色付き始めた果実のような唇が
驚きで微かに震えている。

バンビか?

プードルか?

それとも、
天使?

いずれにしても
人間じゃねぇよな。

だって、
可愛過ぎっだろ!

しかもこいつ、
不安そうに小首を傾げやがって…。




ごくっっ…




「超、美味そうじゃねぇか…。」

「え?」

「俺の名は新田海。
 お前は?」

「…―――言わない。」

「あ、こらっっ!待て!」

「待たない。」

「逃げんなぁ!!!」

「逃げる。」








はぁ…はぁ…

逃げられた。


「はは。足、早ぇ…。」


跳ねるように行っちまった。

やっぱ、バンビか?

まぁ、でも…


「LOCK ON 完了、だな。」


またすぐに会おうぜ。

俺のバンビちゃん。








頑なな心を溶かすような、
温かい光を宿した瞳。

その光の奥に
彼を見上げる私が映っている。

この人は、優しいひと…

直感的にそう思った。

そんな私の心の変化を読み取ったのか、


「ねぇ、君、名前は?」


再び彼が口を開く。


「し、らいし…もも。」


まだまだ小さい声だけど、
さっきまでの声音とは明らかに違う。


「桃ちゃんかぁ。
 とってもかわいい名前だね♪」

「あ、ありがとう。」

「僕の名前は中村優太。」

「中村、さん?」

「さんはいらないよ。
 ほら。僕たち同じ1年でしょ?」


そう言いながら、
彼は自分のタイを指差した。


「だからさ、
 優太って呼んで。」

「え?」

「ゆ・う・た。」

「…―――」


男子と会話をするという高いハードルを
やっと1台越したのに、
2台目がすぐ待ってるって感じ。

でも、なんだろ…。

越えられる、気がした。

そしてその先には、
新しい世界と、


「ゆうた、くん?」

「よく出来ましたぁ♪」


とびきりの笑顔が待っていると…。








いた!

バンビだ。




短大エリアに入った所で俺は、
バンビの姿を見つけた。

さっきの顔とは違う、
笑顔のバンビ。

だがそれは、
あの変な女に向けられたモノだった。




なんだ、アイツ。

バンビの前で
やたらモジモジしやがってよぉ。

純情ぶって、
気を引く作戦か?

つか、逆ナンか?

こっからじゃ、
話、聞こえねぇなぁ。

もうちっと、近づくか…。




それは俺の新しい世界…、
―バンビの追っかけ―の始まりだった。




…おい、誰だ?

ストーカーの始まりって言ったヤツは!




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出会いはサイテー、サイアクで…3

やっぱりというか、
案の定というか、
愛未と別れてすぐに
…迷子になった。


どうして学校っていうのは
こうも似たような建物ばっかりなんだろう!


背表紙が全体の見取り図になっている
学校案内とにらめっこをしながら、
自分の残念さは棚に上げてしまう。

統一感のあり過ぎる学校は
小さい頃流行った巨大迷路級に難解だった。


「やだ、ホントにわかんない…。」


入学早々、迷子→遅刻
という図式が頭に浮かび、
気持ちだけが焦る。

とりあえず、動かないよりは良いかもと、
歩いてはみるものの…、


「ここ、さっき来たよ…。」


建物に入ると、
さすがに違うとわかってガックリ肩を落とす。


「もぉ、ダメかも…。」


気持ちのほとんどが折れかけた時、
視線の先に人影が見えた。

足早にどこかに向かっている。


「そ、そうだ!」


―わかんなかったら人に聞くんだよ―


愛未の言葉を実行するのは
今しかない!

迷子になってから
全然誰とも会わなかった。

これを逃したら、
迷子→遅刻=クラスに馴染めない
って事になっちゃうかも知れない!


私は急いで
人影を追いかけた。




「はぁ…はぁ…」


足早に歩を進める人影に追い付くには、
走るという選択肢しかなく、
苦しい呼吸の中、
あることがスッポリ抜けていた。

それは
人影が人に変わった頃、
ようやく頭の中に戻ってくる。


あ…れ?
制服の下、パンツ…。

って、ことは…


それに気付き、
自分の動きにブレーキをかけた途端、


「ん?僕に何か用?」


同じブレザー、
同じ色のタイ、
でも…


「君も遅刻しそうなの?」


違う性別の“彼”が
振り向いた。




「僕以外にいたんだ。
 入学早々遅刻しちゃう人。」


私に歩み寄りながら、
くすくすと笑う。

きれいな二重に
形の良い眉。

テレビの中で見るアイドルよりも
アイドルらしい整った容姿。


「ふふ。
 もうバックレちゃおっか、ふたりで♪」


サクランボのように艶やかな唇に
人差し指を当て、
きゅっと片目をつぶってみせる。


「あ、あ…あの…」

「ごめん、ごめん!
 怖がらせちゃった?」

「―――…いえ」


俯き、発した声は
自分でも驚くほど小さな擦れた声。

それでも、
やっとの思いで出した声だった。




私は…
男の人が苦手。

特に
同じぐらいの年の男の子が。

たとえ、
相手に悪意が無かったとしても、
側に寄られると身がすくみ、
話しかけられると言葉に詰まる。

そう…、
今みたいに。


「…?」


追いかけるんじゃなかった。

きっと私、
赤くなったり、青くなったり、
ヒドイ顔してる。

しかも、
黙り込んじゃうし…。

困ってる…よね。


上目づかいで、
ほんのちょっとだけ
彼を見た。


「―――!?」


そこに待っていたのは、
陽に透けて
きらきら輝く茶色の髪と
心底心配そうな瞳…。


その瞳は、


大丈夫?


と語っていた。




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出会いはサイテー、サイアクで…2

「ふ~ん…。
 
 で、
 今のは、

  ももぉ、
  きれいなお花を眺めてただけなのに
  いきなり知らない男の人に
  怒られちゃったんだぁ。
  でもきっと、悪いのは私。
  今度その人に会ったら謝らなきゃ。

 って、ホンキで思ってますって話よね?」

「愛未…?
 言い方にすっごいトゲがあるんですけど。
 あと、
 私の口調をマネするのやめて。
 ていうか、似てないし。」

「あ、トゲ感じた?
 天然おとぼけキャラの桃ちゃんでも?」

「む~!
 私、天然じゃないし!
 おとぼけでもないし!」

「それ、
 天然キャラが言う確率
 100%のセリフだからね。」

「もぉ~!
 愛未、ひどいっっ!!!」

「はは。ごめん、ごめん。
 久しぶりに会ったから
 からかいたくなっただけ♪」

「その理由もひどい~!
 ぷ~~~!!!」

「まぁまぁ、これあげるから。
 その膨らんだほっぺに入れて、
 機嫌直しな(笑)
 ほ~ら、
 あーーーーん!」

「あ、あーーーーん。」

「ど?」

「うん!おいしー♪」

「ふふ」




私の名前は白石桃。

聖マリアンヌ短期大学食物学科1年
…になったばかり。

この、
マカロンをあーんしてくれたコは
同短期大学看護学科1年の
北川愛未(まなみ)。

愛未は小学生の頃からの大親友で
私のことなら何でもわかってる
ちょっと怖い存在でもある。

私をからかうのも、
怒らせるのも、
いつの間にか笑顔にするのも、
愛未とってはたやすいこと。


「うん、この緑色のヤツもなかなか。
 どれどれ、こっちの茶色のは…」


細くしなやかな指でマカロンを摘み、
次々と口に放り込む。

唇についたコンフィチュールを
ペロリと舐めるしぐさが色っぽい。


同じ18歳とは思えない…。


腰に届く程のストレートの黒髪が
全然重たく見えないのは
私より10cm高い身長のせいなのかな。


「しっかし、
 価格設定強気だよねぇ、これ。
 こんな小さくて250円だよ。」


エキゾチックな 目鼻立ちも手伝って、
愛未と歩いてると
必ず声をかけられる。


「国産の材料使ってるにしても、
 取り過ぎだって。」

「…」


制服も似合ってるなぁ。


紺色のブレザーに
グレーのプリーツスカート。

カトリック系の学校らしい
清楚なデザインの制服なのに
愛未が着ると
おしゃれな服に見えるから不思議。


「私だったら150円で売る。
 で、10個入りなら1000円。」

「…」


今年の入学生のタイは茜色。

毎期、変わるタイの色は
公募で決まるものらしい。

そして、その学年の
イメージカラーになる。


でもこの制服って、
式典や学園祭があるような
“特別な日”にしか着用しないと
入学案内に書いてあった。

それって…


「もったいないよね…。」

「そう。もったいない。
 せっかく人気スイーツ店になる
 チャンスなのにさ。
 強気な価格設定に
 ブランド力が追いついて無い。
 あと、店員多過ぎ。
 テイクアウトのみの店で
 あの人数はいらない。
 人件費削って、
 値段押さえろって話よ。」

「愛未…、金勘定モード。」

「あ、ああ。
 脳内電算機フル稼働してた?」

「うん…。」


これが無ければ、
完全無欠のいい女なのに(笑)




「さ、そろそろ行こうか?」

「うん。」


入学式が終わって、
教室でのオリエンテーションまで20分。

聖堂から出てきたところを
愛未に呼ばれて、
中庭のベンチに座り
少しの時間過ごした。

知り合いもいない場所で
こうして気にかけてくれるのは
本当に有難い。

社交的な愛未と違って、
内向的で人見知りな私には
とても緊張するシチュエーションだから。

わざとからかったりするのも、
『愛未流の励まし』なんだと思う。



「時間が無いから送れないけど、
 大丈夫?教室わかる?」

「う、うん。多分。」

「わかんなかったら人に聞くんだよ。」

「う…ん。」


バシッッ!!!


「!?」


愛未の手が
縮こまった背中を叩く。


「ほら。気合注入!!!
 顔上げて行きな。」

「…―――うん!」


その勢いを借りて走り出す。

愛未にこれ以上心配かけないよう、
しっかり顔を上げて。








「ああ…、
 そっちじゃないんだけどなぁ。
 ま、これも修業だ。
 がんばれぇ、桃ぉ。」








「あ、あの…、
 食物学科がある棟ってどこですか?」


愛未の言霊が形を成したのか、
私は程なく
修業をする事になる…。 




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出会いはサイテー、サイアクで…1

パンフレットで見るより
何倍も凄い…。




その見事な桜並木に圧倒されて、
私は口をぽかんと開けたまま
ただ上を見上げていた。

左右から伸びた枝枝で
空さえも見えない。

見えるのは
桃色の世界…。




今朝、
制服のタイが上手く結べずに
出かけるのが随分遅れてしまった。

おそらく、
入学式が行われる聖堂は
この並木道の先にある。

前にも後ろにも誰もいない。

もうすぐ式が始まる時間なんだから
それって当り前で、
私も急ぐべきなんだけど…
なぜか動けずにいた。




春の風が花びらを揺らし、
私の体に次々と桃色を落とす。

染まっていく身体に
まるで自分も
この風景の一部になったような
そんな錯覚を覚えた。

目を閉じ、
深呼吸をする。

桜の花には
ほとんど香りが無いと
聞いたことがあったけれど、
こうして深く吸い込むと、
かすかな淡い香りがした。

何度目かの深呼吸をしたところでふと、
頬に当たる風が
止んでいる事に気付く。

そっと目を開けると、
舞い落ちていた花びらも
ぴたりと動きを止めていた。

違和感に再び見上げると、
一片の小さな花びらが
ゆっくりゆっくり
落ちてくるのが見えた。


「あ!」


私は条件反射のように手を伸ばし、
両の掌を上に向け、
到着を待つ。


「も、もうちょっと…」


ふっっ!


あと、数センチってところで
一筋の風に掬われるように
着地するはずの花びらが
ヒラリと舞い上がっていった。


「あ、あれ?」


思わずジャンプして取ろうとしたけれど、
再び吹き始めた風で、
他の花びらたちと紛れてしまう。


「あれれ?もうちょっとだったのに…。」


何となく
“特別”なモノを感じた一片を取り損ねて、
がっくりと肩を落とした時、


「きゃっっ!?」


いきなり後ろ髪を掴まれて、
静かな並木道に素っ頓狂な悲鳴が響いた。




「な、な、な…!!!」


何が起こったのかわからず、
ただただ
手足をバタつかせる私の後頭部に、


「邪魔なんだよ、お前。」


優しさの欠片も無い、
鋭い声が突き刺さった。


「いいか。俺は、
 今日のこの時間、
 この場所を撮るために
 何日も前から準備をしてきたんだ。
 それがぼーーーっとお前が立ってることで
 すべて台無しになるんだよ。
 また来年の今日まで
 待たなくちゃならねぇんだ。」

「な、なんのことをっっ」


言ってるんだろう?

てゆうか、誰?


振り向きたいけれど、
肩までしか長さの無い髪を
ガッチリ握られていて、
どうにも動けない。


「わかったらさっさと消えろ。」


そこまで言ってやっと、
掴んでいた手を離した。

離してはくれたんだけど、


どんっっ!!!


「きゃっっ!?」


今度は背中を思いっきり押された。

痛いとか
怖いとかじゃなくて、
ホントにとにかくビックリして、
押された方向へ一目散に走り出す。


「な、なにっっ!一体っっ!!!」


心臓が破裂しちゃうんじゃない?
ってぐらい走って、走って、
並木道の途切れた所までたどり着いた。

ぜいぜいと呼吸が苦しい。

でも、どうしても気になって、
恐る恐る振り向くと…、


かなり小さくなったその人が見えた。

立ったり、屈んだり、
すごく動きが怪しい…。

よく見ると
手に何かを持ってるみたい。

あれは…


「カメラ?」


そういえば、

―この場所を撮るために―

って…。


「あ!」


私、もしかして、
すっごく迷惑だった?


―また、来年の今日まで
 待たなくちゃならねぇんだ―


とも言ってたし。

怒られても仕方のないこと、
しちゃってたのかも。

謝った方がいいのかな?

きっとこの学校の人だよね?

ど、どうしよう…。


そうやって迷っている内に、


「あなた!なにやってるの?
 新入生でしょ?そのタイの色!」


先生らしき女性に声をかけられ、
聖堂へ急ぐように促された。




滑り込みで式典の列に加わる

厳かな空気の中、
徐々に頭がクリアになっていくと、
自分が悪いことをしたという気が
深まっていった。

そもそも、
あの時間にあそこにいること自体が
間違いだったのだから。


今度会ったら、
謝ろう…。


そう決めて、
指定された讃美歌を歌う為に頁を開いた。




何枚かシャッターを切った後、
顔の高さに構えていたカメラを下ろす。


「ああ―――、だめ、だ。」


気分が乗ってこない。

もう、邪魔するものは何も無いというのに。

入学式が終われば、
この並木道の静寂も失われる。

撮るなら今しかない。

なのに…。




少しクールダウンしようと
胸ポケットからレンズキャップを取り出す。

すると、
どうやって入り込んだのか、
薄桃色の花びらが一枚
黒いキャップと共に収まっていた。

その弱々しい一片を掌に乗せる。


あいつ…


ふとさっきの
超邪魔くせぇ女の姿が浮かんだ。

小さな体を思いきり伸ばして、
花びらを掴もうと躍起になって…


「こんなもの何で欲しいかよ?
 やっぱ女って、バカだな。」


そう毒づいて、
女にしてやったように
花びらを吹き飛ばそうと
唇の位置まで手を上げた。

でも…

何となく思いとどまり、
もう一度花びらを見つめる。

ささくれ立っていた心が
少しずつだが確実に
凪いていくのを感じた。

キャップをレンズから外し、
ポケットに入れっぱなしにしていた
ボディキャップと合わせる。

その2つのキャップに出来た空間に
桃色の花びらを忍ばせて…。




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