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誕生日の奇跡143

差し出された1冊のファイルを、


「なぁに?」


と、受け取るお母さん。


「開いてみて。」


私の言葉に首を傾げながら表紙を開く。

そこには


  ママの店

  Cafe Menu



という文字。

そして、あの写真・・・。

屋上で先生が撮ってくれたあの・・・。


「これって、もしかして・・・。」

「新しいメニュー表なの。
 みんなからのバースデープレゼントだよ。」

「メニュー、表・・・」

「でね、洋子ママ。
 料理の写真を撮る時、嘘ついちゃった。」

「嘘?」


両手を合わせて謝る愛未に
お母さんはさらに深く首を傾げる。

困惑の表情を浮かべたまま
メニュー表をめくっていると、


「ああ、あの時・・・。」


愛未と海に行った夜のことを思い出したのか、
ずっと固かった顔が緩む。


「愛未ちゃん、
 すっごい勢いで料理勧めてたもんね。
 そっか、そっか。そういうことか。」

「ごめんね。」

「ごめんなさい。」

「許す、許す(笑)」


明るい笑顔にホッとする愛未と私。

でも、その後、
1ページずつゆっくり目を通すお母さんの瞳からは
さっきの明るさは消えていた。




もしかして、
気に入らなかったのかな…。




すぐに貰えると思った
喜びの言葉が…無い。

みんなの心に
不安が広がっていった…。


 ぽちりに感謝カンゲキ雨嵐<(_ _*)>


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誕生日の奇跡142

「ではでは、
 海に本当の笑顔が戻った所で、
 パーティーの2次会に突入しますか!」


愛未のひと言で
再びこの場の主役はお母さんに。


「海くーん!
 シュワッとしてるアレが飲みたいなぁ♪」

「…まさか、シャンパンから飲み直しですか?」

「だめ?」

「だ、だめじゃないですけど…//////」


…先輩も専属執事さんに戻った(涙)




お母さんは先輩を傍らに置き、
金色の泡が揺らめくシャンパンを
まるでジュースのようにゴクゴクと飲み干している。


「桃。
 洋子ママ、潰れるのも時間の問題だと思うよ。」

「そうだね。
 記憶がある内にメインイベント突入しようか。」

「うん!」




始まりは
優太くんに貰った緑色のカメラ。

そして、
ほんの小さな思い付きが
みんなの手によって形になった。

1人で作り上げたモノよりも
百倍も千倍も価値のある…


「お母さん、これ。」


私たちの、メニュー表。


 ぽちりに感謝カンゲキ雨嵐<(_ _*)>



誕生日の奇跡141

「海。
 姉さん、安心したわ。
 みんなの告白、ステキだった。
 桃ちゃん。
 気持ちを試すようなことをしてごめんなさい。」

「いえ…。」

「姉さん…。
 俺は大丈夫だよ。
 傷付いた俺はもういない。
 “絶望”の顔なんて消えたんだ。
 だから、今度は…」

「私の番ね。」

「ああ、そうだよ。
 心も体もきちんと治して、
 またここで、みんなと笑おう。」

「うん。」




月香さんは帰っていった。

1人1人の手を握り、
何度もありがとうを言って…。




月香さんの居なくなった店内で
先輩が教えてくれた。

優太くんが淹れた
温かいコーヒーを飲みながら。


「俺が医者になろうと思ったのは
 姉さんが医者嫌いだったせいなんだ。
 姉さんさぁ、
 どんなに熱が高くても、
 パックリ頭が割れても、
 病院に行きたがらなくて…」

「「「パックリ…(汗)」」」

「両親に引きずられながら
 病院に行く姉さんを見送る度に
 俺が医者だったら、
 あんなに嫌がんないのかなぁ…なんてね。
 でも結局…、
 間に合わなかった…。」

「そんなことないんじゃない?」

「洋子さん?」

「乳がんって
 手術して10年経っても
 再発の危険があるんでしょ?」

「よくご存じですね。」

「ああ…うん。
 一応、女ですから(笑)
 だからさ、海くん、
 医者として出来ることあるよね?
 がんばりなさい。応援するわ。」

「はい。」




先輩はこの夜、
乳腺専門医を目指すことを心に決めた。

女嫌いだった先輩が
女性の味方として医療界で活躍するのは
そう遠い未来ではない。


 ぽちりに感謝カンゲキ雨嵐<(_ _*)>



誕生日の奇跡140

「ゆ、ゆう…た?」


優太くんは先輩のことを
友達と認めていながらも、
どこか距離を置いて接している。


でも、この告白。

もちろん友達としてだろうけど、
どうしちゃったんだろう?

先輩なんかビックリし過ぎて、
青ざめてる。


「具合悪いのか?
 俺にそんなこと言うなんて…。」

「…他意は無いよ。
 人として先輩が好きって伝えたくなっただけ。」

「そ…うか。そうだよな…。」


あ…。

残念そう(涙)


「残念だったねーーーwww」


愛未―――っっ!!!




先輩は
深呼吸とも
ため息ともとれる息をついて、


「ありがとな、優太。
 俺も好きだ。」


そう
紳士的に想いを返した。




でも…、
聞こえましたよ先輩。

月香さんが優太くんにお礼を言ってる間に
小さな小さな声で呟いた言葉が…。




「俺の好きは
 そういう好きじゃないんだけどな。」




恋って、
切ないですね…。

先輩の笑顔が胸に痛いです。




だけど、
この告白劇には続きがあった。

そこには、
もうひとつの切なさが
ひっそりと隠れていた。


 ぽちりに感謝カンゲキ雨嵐<(_ _*)>



誕生日の奇跡139

驚いて、
3人同時に振り向くと、


「私もさぁ、
 結構海のこと好きだと思うんだけど、
 あんたはどうなの?」

「え!?」


なぜか愛未が“告白”。


な、なに?

対抗意識…じゃないよねぇ…。

顔、笑ってるもん。


「好き?嫌い?」

「ええっっ!?」

「どうよ、海?」

「ええ―――っっ!!!」


結局、
「好きです。」と、言わされた先輩。

赤い顔のままぐったりしてる。


「海、モテモテね♪」


月香さんの言葉にも反応が無い。

私は
先輩には申し訳ないけど、
嵐は去ったかな?と
改めてコーヒーに手を伸ばす。



視線、
感じる…かも(汗)


「もーーーもちゃーーーん♪」


―――まさか!?




予感は的中。

愛未は私に告白をしてきた。

今さら感に不思議に思いながらも、


「もちろん、大好きだよ。」


と、笑顔で返す。




そう言えば、
側にいるのが当り前で、
好きだって伝えたこと無かったかも…。

ん?あったかな?

遠い、遠い、昔…




記憶をたどりながら、
コーヒーを口に含む。

ふと見ると、
愛未は何事も無かったかのように
すまし顔でコーヒーを飲んでる。

でも、その横の優太くんの様子が…。




めずらしく焦りを浮かべた表情。

目も心成しか泳いでる。


「優太、どうした?」


先輩も心配げに声をかけた。

すると優太くんは
ウルウルした目をこちらに向け、


「僕も先輩のこと好き。
 先輩は?」

「―――っっ!!!!!!」


私より何倍もキュートな
愛?の告白をした。


 ぽちりに感謝カンゲキ雨嵐<(_ _*)>



誕生日の奇跡138

「手紙を開いた夜、
 私いっぱい考えました。
 先輩のこと…。
 そして、
 月香さんのこと…。

 会いたいのに会えない。
 
 会いたいのに会わない。

 そんなのダメって思って…。

 だから、
 手紙を書くことにしました。

 先輩に会いに来て下さいって。
 会って直接
 手紙を渡して下さいって。

 先輩の本当の笑顔が見たいから…。

 先輩が、


 大好きだから。」




「言った…。」

「うん…。」

「優太、残念だったね。
 桃のはじめての大好きを頂けなくて(笑)」

「愛未ちゃん、ちょっと黙ろうか(怒)」




顔が熱い…。

体も…。

でも、
すごく軽やかな気分。

大好きって、
ステキな言葉なのかも。




「桃ちゃん、ありがとう。
 ほら、海も!
 赤くなってないで、お礼言って!」

「う、うん。
 ありがとう、桃ちゃん。
 今日のことも、
 今までのことも全部、
 ありがとう。

 俺も桃ちゃんが
 …だ、だ、だいすきだよ//////」


先輩、
リンゴぐらい、赤いですよ?




先輩と私の間で
幸せそうに微笑む月香さん。


よかった…。


ほっと一息ついて、
残りのコーヒーを手に取ろうとした時、


「あのさぁーーー!」


今まで大人しくしていた
―私からはそう見えた―愛未が
いきなり大きな声を出した。


 ぽちりに感謝カンゲキ雨嵐<(_ _*)>



誕生日の奇跡137

「私たちは上手くファスナーを
 下ろせたんだと思います。
 今の先輩は
 誰が見ても優しくステキな先輩です。
 でも、キグルミを脱いだ途端、
 がんばって隠してきた寂しさも露出してしまった…。」




「今度は、露出…。
 ますますエッチに聞こえるのは気のせい?
 も、もしかして計算?」

「…は、ないよ。桃ちゃんだよ。」

「だよねぇ。」

「あの子、もしかして…、


 欲求不満なのかしら?」

「「…―――(洋子ママ…)」」




「桃ちゃん、海のこと、
 すごく理解してくれてるのね。
 ありがとう。」

「いいえ。違うんです。
 手紙を託されるまで、
 あの…、
 言い辛いんですけど…、
 そこまで先輩のこと深く考えてなかったんです。」

「はは…。正直だね。」

「ごめんなさい、先輩。
 仲良くなれたことで舞い上がってて、
 それ以上のことは考えなかったの。」

「謝ること無いよ。
 俺達には他に考えなきゃいけないことが
 たくさんあったんだ。
 そんな時に手紙を渡した俺の方こそごめん。」




考えなきゃいけないこと…

そう、
この一週間はホントに目まぐるしい日々だった。

色々なことが押し寄せて、
どれもキチンと考えなければいけないことばかりで…。

でも、
先輩のことを放ってはおけなかったし、
後回しもしたくなたかった。




あの公園ではじめて、
苦しげな先輩を見た。

心に秘めていた闇を聞いた。

そして…、




「手紙を託されて、
 私…嬉しかった。
 不謹慎だけど…、嬉しかった。
 信頼してもらってるのかなって…。」

「してるよ、信頼。」

「先輩…。」




「ねぇ。桃と海、良い雰囲気じゃない?」

「そ、そう?(汗)」

「海くんが息子かぁ。
 ステキねぇ!
 義母との禁断の愛なんて。
 うふふっっ♪」

「「…―――(洋子ママ…)」」


 ぽちりに感謝カンゲキ雨嵐<(_ _*)>



誕生日の奇跡136

「月香さん…、月の香り…、
 ステキなお名前ですよね。」

「え?あ、ありがとう。」

「なぁに、桃?
 月香さんに告白?」

「ううん、愛未。そうじゃなくって。
 ねぇ、気付いてた?
 部室に貼ってある写真…」

「ああ、うん。」

「僕も気付いてたよ。
 で、今日意味がわかった。」




あの部室に入った人はまず
写真の量に圧倒されるだろう。

そして、
注意深く見てみるとある事に気付く。




「先輩、
 あの写真たちは先輩が撮ったものですよね?」

「え!?ええ…っと…あの…―――」




笑顔の私たちと
ちょっと慌てた感じの先輩を見比べ、
月香さんは首を傾げる。




「先輩が部長をしてる写真部の部室には
 無数の写真が飾ってあります。
 人や景色、その種類は様々です。
 でも、あるものが写ってる写真が圧倒的に多い…。」

「あるもの?」

「はい。それは…」

「い、言うのっっ?
 言っちゃうの、桃ちゃん?」

「だめ…ですか?」

「う…。その目に弱いよ、俺は。」




「月香さん、それは…お月さまです。」

「つ…き?」

「はい。
 月…、
 月の香り…。
 つまり、月香さん、
 あなたがたくさん写ってるんです。」

「!?」




驚いた月香さんは目の前の弟を凝視する。

先輩はその視線から逃げるように
顔を横に向け、


「部室に人が来ることなんてなかったから…、
 ちょっと油断してたよ。」


と、変な言い訳をした。




「先輩は
 あなたを、家族を、人間を…、
 周りのすべてを遠ざけ、
 孤独な世界に身を投じてました。
 でも、やっぱり求めてたんです。
 月香さんの愛を。

 そして、先輩の心も愛で溢れてました。
 キグルミではもう隠しきれないほどに…。
 先輩は誰かに
 背中にあるファスナーを
 下げて欲しかったんですよね?」




「ファスナー…。
 なんか、エッチじゃない?」

「いや、むしろ詩的?
 桃ちゃんの意外な才能を見た気がするよ…。」




愛未と優太くんに
おかしな感心をされてるとも知らずに
私の一世一代の熱弁は続いた…。


 ぽちりに感謝カンゲキ雨嵐<(_ _*)>



誕生日の奇跡135

「月香さん…、私…、
 海先輩とここまで仲良くなれたことが
 今でも信じられないくらいなんです。
 だって、先輩…ちょっと怖くて…。」

「も、桃ちゃんっっ!」

「海、静かに。」

「は、はい…。」


慌てて立ち上がった先輩を、
月香さんはひと言で大人しくさせる。

先輩が椅子に落ち着いたのを見て、
私はまた口を開いた。


「あの手紙には、この一週間のこと…、
 先輩と仲良くなってからのことを書きました。
 でも…、
 その前2ヶ月の先輩は
 私にとって…あの…とても怖い人でした。
 だけど、今ならわかります。
 先輩は怖い人を演じてたんです。
 怖い人のキグルミを被ってたんです。
 案外スケスケのキグルミだったんですけど。」




「…桃、上手いんだか、
 上手くないんだか…」

「そうねぇ。ちょっと微妙?」

「愛未ちゃん、お母さん、静かに。」

「「はい…。」」




「そのスケスケのキグルミを脱がせたのは
 あなたなのね?」

「いえ。違います。
 ここにいるみんなです。

 優太くんは先輩の優しさを
 一番に見抜いてました。
 だから、先輩を遠ざけることをしなかった。
 そうでしょ?」

「うん。」

「愛未は…
 先輩のイジメのこと聞いて、すごく怒りました。
 ああいう愛未、はじめて見た気がします。
 今では立派な夫婦漫才が出来るぐらい仲良しで…。」

「夫婦って!」

「…漫才のとこは否定しないんだね。」

「お母さんは、今日とても幸せそうです。
 先輩が気を遣ってくれるから。」

「そうね。
 こんなにお酒が美味しいと思ったことはないわぁ。
 海くんのお酌、心がこもってるから♪
 執事服も似合うしねぇ。」

「よ、洋子さん//////」


顔を赤らめる先輩を
月香さんはちょっと不思議そうに見る。

それに気付いた愛未が、


「月香さん、海は…」


と、何かを言おうとしたけど、


「愛未ちゃん、それはまた後で。」


そう優太くんが穏やかに遮った。



そして、


「さぁ、桃ちゃん、君の番だよ。」


とびきりの笑顔で
私の背中を押す。


 ぽちりに感謝カンゲキ雨嵐<(_ _*)>


誕生日の奇跡134

「週末には夫が会いに来てくれるの。
 あの子を抱っこしてね。
 でも、昨日は
 小さな手に手紙が握られてた。」




月香さんが私を見る。

その瞳に闇は無い。

透き通った湖のような瞳…。




「桃ちゃん。」

「はい。」

「海のこと、好き?」

「え!?」

「ね、姉さん、いきなり何をっっ!?」

「あ!モチロン、友達として好きかって意味よ。」

「あ、あったりまえだよっっ!!!(汗)」

「友達として…ですか?」

「桃ちゃんも、乗っかんなくていいからっっ!」

「そうよ。友達として…。」




それならば、
簡単に言えるはずの“好き”の2文字。

だけど…//////




「姉さん!桃ちゃんが困ってるじゃないか!」

「ううん、先輩、違うの。
 困ってるんじゃないの。
 あの…ちょっと恥ずかしくて…。」




だって…




「もう、いいよ、桃ちゃん!」

「そうね。ごめんなさい。
 あなたの気持ち、
 十分わかってるのよ、あの手紙で。
 でも…、でもね…。」




月香さんの澄んだ瞳に
ほんの少しだけ陰りが見えた。




だ、だめっっ!!!

あの瞳に闇は似合わないっっ!!!




―私が私のままで出来ること―




あるよね、桃。

今すぐに出来ることが。




「え、えっと…、
 私…男の人に好きって言ったことなくて…。」

「そ、そうだよ!
 桃ちゃんは清純を絵に描いたコなんだからっっ!」




先輩は月香さんが諦めるように
必死になってくれてるけど、
月香さんの顔は…求めてる。

なぜだかわからないけど、
私の言葉を待っている。




立ち上がり、
月香さんと先輩を正面に捉えた。

大好きな先輩と
大好きな先輩のお姉さんに
気持ちを伝えるために…。


 ぽちりに感謝カンゲキ雨嵐<(_ _*)>



 

誕生日の奇跡133

「手術は上手くいったの。
 でも、心は戻らなかった。
 切り取られたおっぱいとともに
 あなたを失ってしまったと思ったから…。
 
 前も見えないぐらい暗く深い闇…。
 きっと海も彷徨ってる。
 私のせいで…。
 大事な弟を闇に突き落とした最低の人間…。
 そんな人間に人を育てる資格は無い。

 そう自分を責めて、
 とうとうあの子が抱けなくなった。」

「そ…んな…。」

「無邪気に笑うあの子を見る度にね、
 幼い頃のあなたの顔と重なるの。
 それがいつの間にか、
 あの日の“絶望”の顔に変わって…。

 結局、私は
 退院できるぐらい胸の傷が癒えた頃、
 あの子からも夫からも離れて、
 心を治療する病院に転院したの。

 そこから、
 海に手紙を出し、
 桃ちゃんからの手紙を受け取った…。」

「え!?」


あれは病院からの…?


「でも姉さん、差出人の住所は…」

「もちろん、“自宅”にしたわよ。
 入院してること知られたくなかったもの。
 海はそういうとこに敏感だから。
 昔から、名探偵みたいだったもんね。」

「あー!!!やっぱり、英ちゃん?」


重苦しい空気の中で
お母さんの声が宙に浮く。


「お、お母さんっっ!」

「ご、ごめんなさい…。」


さすがに場違いな発言だと気付いたのか、
肩をすぼめて小さくなる。

でも、
月香さんはクスッと笑って、


「そう。英ちゃんみたいだったんです。
 私が無くしたものを推理で見つけたり…。
 ミニ船越英一郎さんだったんですよぉ(笑)」


と、話に乗ってくれた。

お母さんは嬉しそうに、


「月香さん、英ちゃんファンなの?」


なんて質問してる。
(調子に乗り過ぎ!)




優しい人…。

だから自分を
責めて、
責めて…。

先輩が自分を
責め続けていたように…。


 ぽちりに感謝カンゲキ雨嵐<(_ _*)>



誕生日の奇跡132

「手術が決まった後、
 私の心はどんどん不安定になっていったの。
 良い母、良い妻でいたいのに
 それができないほど…。
 体の症状より心が痛かった。
 深い暗闇を彷徨ってた。
 湯豆腐屋さんで海と会った時は
 まだその入り口だったから、
 夫ともそういうこともあるよねって笑って…。
 ホントよ。
 私、そういうことに偏見は無いつもりだったから。」

「つもり…。」

「そうなの。
 結局、“つもり”だったの。
 時間が経つにつれ、
 色々なことがままならないイライラが
 海に向いて…。
 そして、実家に行った。
 海が…男と付き合ってるって告げ口をしに…。」

「…そう。」

「でも、父さんと母さんの顔見たら言えなくてね。
 その迷ってる様子を病気のことと勘違いしたみたいで、
 言われたの…

  もう、ひとりで苦しむな。
  私たちは全部知ってる。
  お前の病気のことは…。

 って。」

「え?」

「…笑っちゃうでしょ?
 一生懸命隠してたのに、
 知ってたのよ、親も夫も。
 まぁ、当然よね。
 死ぬかも知れないってことを家族に言わないなんて、
 後で問題になり得ること、医者はしないわよね。」

「…」

「だからね、あの日。
 海が告白した日、
 まだ知らなかったの、父さんも母さんも。」

「っっ―――!?」

「海を実家に呼んだのは、
 私の病気のことを言うためだったの。」

「じゃ…あ、俺…。」

「…でもね、
 私、言うつもりだったから…。
 あの場でね。
 だから、遅かれ早かれわかることだったのよ。」

「…」

「あの時の私の心、もう壊れかけてた。
 毎日、毎日、
 何もかもを海のせいにしてた。
 医大生のくせに
 どうして私の病気に気付いてくれなかったの?とか、
 私を苦しめる為に
 わざと湯豆腐屋へ来たんじゃないの?とか、
 本当にサイテーな考えばかりが浮かんできて…。
 そんな考えしか出来ない自分が嫌で…。」

「姉さん…。」

「触らないでって言った瞬間のあなたの顔、
 私、一生忘れないと思う。
 絶望が張り付いたあの顔…。
 そして…
 私は壊れた…。」
 



月香さんの瞳から涙が溢れる。

それでも、
言葉は途切れることは無い。

すべてを吐き出して、
そこからスタートするために…。


 ぽちりに感謝カンゲキ雨嵐<(_ _*)>



誕生日の奇跡131

ひとしきり笑い終えると
店の中には一体感が生まれていた。

そして、月香さんは
“先輩のお姉さん”から
“みんなの友人”に変わる。


「お子さんは?
 連れて来られてないの?」

「先輩とは何歳離れてるんですか?」

「月香さん。
 海の弱点教えて!」


それぞれ好き勝手浴びせる質問に
にこにこと丁寧に答えていく月香さん。


「桃ちゃん…見て。
 姉さん、あんなに嬉しそうに…。」

「はい。でも、先輩も嬉しそうですよ(笑)」

「あ、うん、そう。
 嬉しいよ、すっごく。
 久しぶりなんだ。
 姉さんのあんな笑顔見るの。」


笑う姉を見ながら
穏やかに言う先輩。

しかし、その瞳には
強い意志が宿っていた。




「姉さん…。」


月香さんの後ろにいた先輩は前にまわり、
その足元に跪く。


「話そう。
 あの日のことを。
 俺はもう逃げない…。」


凛々しく真っ直ぐに見上げる弟を
月香さんは眩しそうに見つめ、


「そうね。」


と、頷いた。


「話しましょう、海。
 どんなに傷付いても…。」




私たちは、
無力な小船。

些細な波にも翻弄されてしまう。

でも、
必ず陸はある。

どんなに広い海が続いていても…。


 ぽちりに感謝カンゲキ雨嵐<(_ _*)>



誕生日の奇跡130

―姉に育ててもらったと言ってもいいぐらい…―


あの公園で先輩が言った言葉を思い出す。

先輩にとって
姉であり、親でもある月香さん。

同じように、
彼女にとって先輩は
弟であり、子でもあるんだろう。


これは“親離れ”を感じての…―――。


月香さんの寂しさを読み取ったのか、
先輩は怒気を帯びていた表情を緩める。

そして、
目を細めながら髪をかき上げると、
芝居がかった口調でこんなことを言った。




「姉さん。
 俺、学校では大人系なキャラで通ってるんだぜ。
 ポーカーフェイスなクールな存在。
 それが俺様なのよ。
 なぁ、桃ちゃん?」




そうか。

今、私が
私のままでできることって・・・。




「先輩?
 大人系でポーカーフェイスでクールな存在って
 耳まで真っ赤にしたり、
 年下の子と本気で言い合ったり、
 キグルミや執事服を着こなしたりするんでしょうか?」




「「「ぷーーーーっっ!!!」」」




私の拙いツッコミに
衣装替えを目撃してる3人が
思いっきり吹き出した。

月香さんは、


「キグルミまで着るの、この子は?」


と、目を丸くし、


「成り行きだよ!
 ぜんっぜん、着こなしてないしっっ!!!」


そう先輩は拗ねる。


ううん。

拗ねて見せる。




どうやっても切なくなってしまう2人の話を
ちょっとでも和らげること。

大切な荷物を
衝撃から守る緩衝材のように…。

それが、
今の私にできる…―――。




先輩と目が合う。


クールどころか
とってもあったかいその瞳が
“ありがとう”と言ってる気がした。


月香さんは
優太くんたちと一緒になって笑ってる。


大きな声で…。


細い肩を揺らしながら…。


 ぽちりに感謝カンゲキ雨嵐<(_ _*)>



誕生日の奇跡129

「おいし…。」

「うん。姉さんの好きな味だね。
 優太、サンキュ。」


コーヒーを挟み、
微笑み合うふたり。


「実家にいた頃は、
 よくコーヒー淹れてくれたわよね。」

「姉さん、味にうるさいから、大変だったよ(笑)」


2年のブランクを感じさせない自然な会話。

このまま、
月香さんの闇も
先輩の涙も
コーヒーの温かさに溶けてしまえばいい…。








「今考えるとね、
 病気がわかった時、
 一番聞いて欲しかったのは海だった…。
 
 でも…、私ね、
 状態がかなり悪くて…、
 例えば余命とか?
 海には隠してもわかっちゃうなぁとかね…。
 
 先生に頼みこんで、
 両親や夫には
 希望を過度に含んだ説明をしてもらってたから、
 だから…言えなかった。」

「どうして!?
 本当の事を聞いても、みんなで支えたさ!」

「だからよ。
 年老いた親や
 仕事と子供の世話で忙しい毎日が待っている夫に
 心を痛めながら支えてもらいたくなかったの。
 私はひとりで大丈夫って、
 妙な自信もあったし。」

「バカだよ、姉さんは。
 言ってくれれば俺だって、
 内緒にすることぐらい…。」

「海、すぐ顔に出るじゃない(笑)
 ババ抜き苦手でしょ?」

「それは子供の時の話だよ!
 今は違う。
 嘘だって…。
 簡単だよ、そんなこと。」


吐き捨てるようにそう言った“弟”を
月香さんは少し淋しそうに見上げた。


 ぽちりに感謝カンゲキ雨嵐<(_ _*)>



 

誕生日の奇跡128

「あなたの手紙、嬉しかったわ。
 私にとってこの手紙は
 暗闇に射す一筋の光…。」

「え!?」


あまりにも高みへ押し上げられてしまった
薄桃色の手紙。

中身は
ホントにホントにフツーの事しか書いてない、
ただの手紙…。

なのにどうして…?


「海と会わなかった2年は…闇。
 私は真っ黒い闇の中で必死にもがいてた。
 夫は支えようとしてくれたし、
 子供は無条件で愛し求めてくれる。
 でも、一見幸せそうな生活は
 私の不安をどんどん色濃くさせたの。」

「姉さん…。」


先輩が小さな肩に手を置く。

月香さんはその手をぎゅっと握った。


「海とはね、そんなにべったりじゃなかったのよ。
 この子は高校の時からひとり暮らしをしてたし、
 私も就職して、結婚して、自分の道を歩いてたから。
 それでも…、繋がってるのよね、心のどこかが。
 根っこのところで強く、深く…。

 例えば、私が恋人…、あ、今の夫ね、
 その彼とケンカするでしょ?
 もう、別れる―――っ!て泣いて帰るの。
 そうすると、
 そんな時に限って海から電話があったりして。
 姉さん、元気?なんて、空気読めない事言うのよ(笑)
 で、元気な訳ないじゃん!!!って、
 結局、全部話しちゃうの。
 彼の悪口もぜーーーんぶ!
 海、何も言わず聞いてくれたよね?」

「言いたくても言えなかったんだ。
 口挟む間もないぐらい凄かったから、勢いが(笑)」

「//////」




きょうだいがいるって、いいな。


2人のやり取りを見ていて、
とても羨ましくなった。

それと同時に
そんな相手を亡くした
優太くんの悲しみを想った…。


今、このふたりを
どんな想いで見てるんだろう…。


チラリとカウンターの方へ目を向けると、
さっきまで愛未の横に座っていた優太くんの姿が
キッチンの中に…。

程なく、
店内に香ばしさが漂う。




「どうぞ。」


優太くんは3人分のコーヒーを置き、
すぐにその場を離れた。

表情は…穏やかに見える。


「優太くんよね、どうもありがとう。」


月香さんの言葉に
キッチンから笑みを返す。




でもその心は、
闇の中なのかもしれない…。


 ぽちりに感謝カンゲキ雨嵐<(_ _*)>



誕生日の奇跡127

「少し、お話させて。」


その言葉に先輩が素早く反応し、
月香さんのすぐ側に椅子を置く。


「桃ちゃん…。」

「う、うん。」


促されて座りはしたけど、
何の話だろうと体が硬くなった。

そんな私を見て、
くすくす笑う月香さん。


「緊張しないで。
 取って食べたりしないから(笑)
 あ、でも、
 桃ちゃんかわいいから
 食べちゃいたい気もするけど。」


緊張を解くために言った、
敢えての軽口。

前半部分に笑顔が戻り、
後半部分に思いっきり恐縮した。


「かわいいなんて、スイマセン!」

「ん?どうして謝るの?
 桃ちゃん、
 同性の私から見てもすっごくかわいいけど?」


と、首を傾げる月香さん。

その表情が
公園で話しこんだ時の先輩そっくりで、


「DNAってすごいんですねぇ…。」

「…?」

「いや、えっ…と、
 月香さんと先輩、とっても似てると思って。」

「そう?」

「はい。」


何度も頷く私に、
月香さんは嬉しそうに微笑んだ。

寄り添うように立っている先輩も…


「ホントだ!似てるっっ(笑)」


今まで大人しくしていた愛未が
思わず叫んじゃうぐらいの
“同じ微笑み”を私にくれた。


 ぽちりに感謝カンゲキ雨嵐<(_ _*)>



誕生日の奇跡126

「あ…、あの…」


“絆”に割り込むのは気が引けるけど、
思い切って声をかける。


「月香さん…、
 床は冷たいから…椅子、使って下さい。
 体に触るといけないから…。」


そう言って一旦しゃがんだ私は
月香さんの肩を抱いて立ち上がった。


丸みを感じない肩が痛々しい…。


先輩はハッとしたように慌てて立ち上がり、
近くの椅子を差し出す。


「ごめん、姉さん!
 俺が気付かないといけないのに!」

「いいのよ、そんなに気を使ってくれなくても。
 経過は順調だから。
 桃ちゃんもありがとう。」


椅子に腰を下ろした月香さんは
私を見上げ微笑む。


「いえ…、そんな。
 お邪魔しました。」


話を中断させてしまったことを詫びて、
脇に移動しようと後ずさりした途端、


「待って。」


と、腕を掴まれた。


 ぽちりに感謝カンゲキ雨嵐<(_ _*)>



誕生日の奇跡125

「い…つ、手術を?
 そんなにな…るまでどうし…て?」


しゃくりあげながら
たどたどしく質問をする先輩。

月香さんはその頭を撫でながら、
“空白の2年間”を少しずつ埋める。


「あの子がね、
 どうしても左のおっぱいから
 お乳を飲まなかったの。
 今考えると、教えてくれてたのよね。
 ママ、ここに何かあるよって。
 でも、私って、
 昔っから病院が嫌いじゃない?
 出産もお産婆さんにお願いしたぐらい(笑)
 だから…、発見が遅れちゃったのよ。

 海とね…、会った日。
 湯豆腐の店ね。
 入院の前に
 家族旅行したいって私が言いだして…。
 そういう日だったのよ。
 あの日は。」

「ご、ごめ…んっっ―――。
 そんな大事な日に…俺…は―――。」

「ごめんはこっちよ、海。
 あんな時じゃなければ、受け入れられたと思う。
 …ううん。どうだ…ろ。
 あれがホントの自分だったのかも。
 死への恐怖で
 今まで演じてきた“理解ある姉”を
 演じ続けることができなかった…。
 ただ、それだけなのかも。」

「そんなことないよっっ、姉さん!
 姉さんはいつも俺を守って…、
 どんな時でも盾になってくれたじゃないかっっ!
 演じてたなんて…、
 そんなのありえない!」

「海…。」

「俺はそんな姉さんを失望させたんだ!
 自慢の弟になるどころか、
 男しか愛せない…最低の…。」


自分を曝け出し、
傷付きながら、
それでも
歩み寄ろうとする姉弟。

その姿は
一枚の絵画の様。

絆という名の
美しい…。


 ぽちりに感謝カンゲキ雨嵐<(_ _*)>



誕生日の奇跡124

誰も言葉を発することない空間で、
壁に掛けられた時計の針だけが
音を立てて動いてゆく。

月香さんは
自分の手と先輩の手を
厚みの無い胸から外し、
膝の上に置いた。




「乳がん、だったのよ…。」




美しいその人の口から出た言葉は
あまりにも衝撃的なひと言だった。








  一生、会えなくても、
  あなたが幸せなら私も幸せです。




薄黄色の手紙に書かれていた一文が
フラッシュバックのように頭に浮かぶ。

あの文を読んで、


一生会えなくても…
なんて悲しすぎる。

この先、何十年も
お互いを想い合いながら
会わないなんて…。


そう思って手紙を出した。

先輩に会いに来て下さいと…。


でも、あれは…
こういう意味だったんだ。

自分の死を意識した…。




「あなた、医大生でしょ?
 色々知ってる分だけ、
 心配させると思って…。

 だから、
 痩せたのは病気のせい。
 海のせいじゃない。」

「くっ―――…」


先輩は
嗚咽を堪えるように
手首で口を押さえる。

それでも漏れる声に
私たちは


…泣いた。


 ぽちりに感謝カンゲキ雨嵐<(_ _*)>



誕生日の奇跡123

先輩の頬に
新たな涙が流れる…。


とても透明な
美しい涙が

幾筋も…

幾筋も…。




月香さんの手紙を読み終えた先輩は、
もう一度私の手紙を読んだ。

やがて、
ゆっくりと顔を上げる。


「姉さん。
 俺たちは間違ってた。
 そうだね?」

「ええ。そうよ。」

「自分を責めて…、
 姉さんから、家族から逃げて…、
 俺は…。」

「海…。」


月香さんの白い手が
濡れた頬に伸びてゆく。

先輩は一瞬躊躇し、
体を引こうとしたけど、
直ぐに力を抜き、頬を預けた。


「海は昔から泣き虫ね。
 小さい頃も
 よくこうやって涙を拭ったわ。」

「姉さんは…、
 姉さんは痩せた。」


頬に置かれた手を
壊れもののように優しく握る先輩。

その手のさらに上から、
月香さんのもう一方の手が握る。


「海。
 これは黙ってようと思ってたの。
 父さんにも、
 母さんにも、
 口止めをしていたの。」


そう言った月香さんは
先輩の手をある部分に導く。




そこは…




「わかる?
 無いでしょ?こっちのおっぱい。」




月香さんの左胸に
自身の手を押しあてられたまま、
先輩の時間は止まった。


 ぽちりに感謝カンゲキ雨嵐<(_ _*)>



誕生日の奇跡122

受け取った封筒を凝視しながらも
一向に読もうとしない先輩に
月香さんが優しく話しかける。


「読む勇気が出ない?
 …分かるわ、海。
 私もそうだったから。

 私も…
 あなたに会いに来る勇気が無かった。

 2年経ってようやく出来たことが
 あなたに手紙を出すこと。
 その手紙も今考えると
 “本当に伝えなければいけないこと”は
 書いていなかった。

 それを気付かせてくれたのはこの手紙よ。
 この手紙が、
 私にここに来る勇気をくれた。
 だから…、
 私が書いた手紙は読まなくてもいい。
 でも、こっちの手紙は読みなさい。
 あなたの友達、
 白石桃ちゃんが書いた手紙は。」


先輩は泣いて真っ赤になった瞳で私を見た。

答えを求めるように…。




正直、アレを読まれるのは恥ずかしい。

勇気を与えることなんて、
全然書いてないし…。

それでも、
ちょっとでも、
役に立つんだったら…。


私は
こくんこくんと頷いた。




先輩は
薄黄色の封筒を膝の上に置き、
薄桃色の封筒だけを手に取る。

そして、
声に出すことなく
読み始めた…。




床に正座した先輩は、
皆が見つめる中
くるくると表情を変える。


驚いた顔。

照れた顔。

笑った顔。


瞳の動きで
どこを読んでいるのか想像出来て、
ますます恥ずかしい気持ちになった。


手紙の最後…
一番下まで移動した瞳は、
もう一度上に戻る。

何度かそれを繰り返した後、
先輩は手紙を封に収めた。




そして、
薄黄色の封筒を手に取る。




月香さんの元から離れて2ヶ月…。




ようやく、
愛しい人の心に届く。


 ぽちりに感謝カンゲキ雨嵐<(_ _*)>


誕生日の奇跡121

「姉さん?海の?
 一体、どう…」

「愛未。」


私は質問を遮るように
首を横に振った。

意図を察してくれたのか、
愛未は黙って椅子に座る。

優太くんもそれに倣い、
愛未の隣に腰かけた。

静かになった店内で
私もそっと移動する。




「海。久しぶり。」

「姉さん…、どうして…。」

「桃ちゃんがね、手紙をくれたの。
 今日、良かったら来てくれませんかってね。」

「桃ちゃんが!?」

「そう。
 あなた、良い友達が出来たのね。」


海先輩を見つめながら、
微笑む月香さん。

柔らかな笑顔に反して、
その体は折れそうなほど細い。

羽織った薄手のカーディガンが
サイズ違いのように余っていた。


「…随分、痩せたね。俺の…せい…だ。」


直視するのが耐えきれなくなったのか、
先輩は月香さんから目を逸らした。


「海。
 今日はそんな事を言う為にここに来たんじゃないの。
 私が…こうなったのは誰のせいでもない。
 もちろん、海のせいなんて絶対ない。」

「うそ…つくなよ。
 いいんだよ、俺が悪いんだ。
 頼むから、もっと責めてくれよ。」


先輩は
心の底から絞り出すような声を上げ、
膝から崩れ落ちるようにしゃがみ込んだ。


「海…。」


月香さんは足元にうずくまる弟を
とても…
とても悲しそうな顔で抱きしめた。

スカートが汚れることも気にせずに、
自身も跪いて…。


「責められるべきは私。
 私の方こそ、そう思っていたの。
 ずっと、長い間…。」


ゆっくりと先輩の背中をさする。

やがて、
先輩の嗚咽が小さくなった頃、
月香さんはバッグから2通の封筒を取り出した。


「これを読んで…、海。」


小枝の様な細い指が持つそれは、
月香さんが先輩に宛てた手紙と
私が月香さんに宛てた手紙だった。


 ぽちりに感謝カンゲキ雨嵐<(_ _*)>



誕生日の奇跡120

ゴンッッ…


先輩の手から滑り落ちた日本酒の瓶が
鈍い音を上げた後、コロコロと転がってゆく。


「先輩?」

「海?」


明らかに様子がおかしい先輩を
訝しげに見る優太くんと愛未。

その先輩は
青い顔のまま、
入り口に立つ女性を見つめている。

ちょうど、その女性と先輩の間に座っていたお母さんは
何かを察知したのか、
スクッと立ち上がり、カウンターの方へ移動した。

途中で転がった酒瓶を拾って…。




少し開いた
先輩の唇が震えている。

その震えが
言葉を紡ぐ作業の邪魔をする。


「誰なの?海の知ってる人?」


愛未の質問にも答えない。

いや、答えられないんだろう。

見開いた目が
動揺で揺れ続けていた。




私は一度だけ深呼吸をして、
ゆっくり歩き出す。

そして先輩の横を通り、
女性の前に立った。




瞳が私を捉える。

それを真っ直ぐに見つめ返した。




できるだけ、いつもの自分で…。

できるだけ、いつもの笑顔で…。




やがて、
緊張の色が薄れ、


「あなたが桃ちゃんね?」


耳に心地良い
落ち着いたトーンの声が聞こえた。


「はい。
 来てくれて嬉しいです、月香さん。」

「こちらこそ。
 お招きいただいて…」




優しい笑顔…。

先輩にとてもよく似た…。




「姉さん…」




掠れた声が愛しい人を呼ぶ。

そして、
声とともに溢れた涙が
先輩の頬を濡らした。


 ぽちりに感謝カンゲキ雨嵐<(_ _*)>



誕生日の奇跡119

「俺も聞きたい。」


いつの間にか先輩も後ろにきていた。


「さっきの準備の間に聞こうかと思ったんだけどさ、
 やっぱり、みんな揃った時の方がいいかなって…。
 桃ちゃんも知りたいだろ?」

「そ、それは知りたいけど…。
 でも、優太くんにも言いたくない事あるだろうし…。」

「やだなぁ。なに深刻そうにしてんのさ。
 ただ、旅行に行ってただけだよ。
 家族水入らずでね。」

「旅行?」

「うん、旅行。
 しかも、携帯も通じないような超秘湯にね♪
 せっかく学校が休みになったんだから、
 両親誘って、温泉旅行に行ってたんだよ。
 で、そこで、メニュー表も仕上げたって訳。」


優太くんは
おどけた調子でそう言った。


そっか!旅行に行ってたんだ!

だから…


「そっか!旅行に行ってたんだ!
 だから、連絡取れなかったんだぁ!
 …って、簡単に納得すると思う?」


3人分はありそうなバケットサンド片手に
愛未は鋭い目を向けた。


わ、わたし…、
納得しちゃったんですけどぉ…(汗)




「優太…、家族旅行って…
 もしかして家の方でもなんかあった?」

「やだなぁ、先輩!なんにもないよぉ。
 愛未ちゃんも考えすぎだって。」

「「…」」


先輩と愛未は
怪訝な顔のまま優太くんをじっと見ている。

その視線を笑顔で受け止める優太くん。

私はただオロオロと
3人を交互に見つめた…。




「海くーーーん!
 おちゃけ、まだぁ?」


緊迫した空気の中、
先輩を呼ぶお母さんの声が響く。

途端に元の和やかさが戻った。


「ほら。姫が呼んでるよ(笑)」


愛未が鋭い視線を解いて、
先輩に笑いかけた時、
店内に一筋の風が吹いた。

入り口に目をやると、
そこには
緊張の面持ちをした女性が
ひっそりと立っていた…。


 ぽちりに感謝カンゲキ雨嵐<(_ _*)>



誕生日の奇跡118

「ねぇー!これ、引っぱりたーい!」


ほろ酔いな人から
完全な酔っ払いになろうとしてるお母さんが、
くす玉から垂れ下がってる紐を指さして
執事さんにおねだりしている。


「これは、最後にお願いします。」

「えーーー!どうしてぇ?」

「それは…」

「いいじゃん!ちょっとだけ!」

「くす玉にちょっとはありません。」


不毛なやり取りは続く…。

救いの手も差し伸べずに
黙々と料理を食べ続けている愛未に、


「先輩、絡まれてるよ。
 あのくす玉、愛未が作ったんでしょ?
 いいの?」

「ん?
 私的にはいつ割ってもOKなんだけど、
 くす玉は最後だって拘ってるのは海なんだよね。」

「え!?そうなの?」


だから、あんなに
がんばって死守してるんだ…。


「って、どうして?
 おめでとうのくす玉でしょ?」

「中身に秘密があるのよねぇ。」

「な、なに?」

「だから、秘密。」

「えーーー!私にも!?」

「そう。桃にも。ね?優太。」

「うん。ヒ・ミ・ツ♪」


ずるい!
私だけ知らないなんてっっ!


思わず、ぷくっとほっぺを膨らませると、
優太くんはくすっと笑い、


「きっと、喜んでくれると思うよ。
 お母さんも、桃ちゃんも。
 だから、そんな顔しないで。」


そう言って、私の膨れたほっぺをツンと突いた。




「それにしても洋子ママ、
 ちょっと飲み過ぎじゃない?」

「そうだね。
 桃ちゃん、お母さんいつもあんなに飲むの?」


シャンパン、ワイン、焼酎と
次々に空いていくボトル…。

先輩はほとんど飲んでないから、
お母さんだよね、アレ空けてるの(汗)


「…ううん。あれだけ飲めるって知らなかった。」


酔っぱらった所だって、
数回しか見たことない。


「そろそろ、やめさせた方がいいよ…ね?
 これ以上酔っぱらったら、
 みんなに迷惑かけるかも知れないし…。」

「飲ませてあげなよ。
 酔い潰れたら、僕が負ぶって帰るから。」

「ああ、それは海がやる。絶対に(笑)」

「そっか(笑)」


今まで、私が見た
“酔ったお母さん”は
明らかにヤケ酒の末に…っていう感じだった。

でも、今日は違う。

心から楽しそうに、
酔っている。


「来年は桃も付き合ってあげないとね。」

「うん♪」


来年は一緒に
幸せな酔っ払いになろうね、お母さん。




「とはいえ、そろそろプレゼントは渡しとく?」


愛未はカウンターの下に置いてある
紙袋を指さした。


そうだ!メニュー表!!!


「優太くん、あの…」


優太くんが持って帰った数冊分が気になる。

けれど、
この何日間のことは聞きづらくて
思わず言葉を濁した。

そんな私の気持ちを察したのか、


「大丈夫。ちゃんと仕上げたから。
 しかも、ウチの両親も手伝ってくれてさ。」


と、ニッコリ。


「え!?」


どういうこと?

携帯はずっと通じなかったし、
家も留守のようだった…。

どこで何をしてたの?

そして、これからは?

聞きたい。

でも…




「あんた、この数日、
 どこに隠れてたのよ?」

「――――!?」




ええ、ええ。

愛未は聞くだろうと
思ってました(汗)


 ぽちりに感謝カンゲキ雨嵐<(_ _*)>



誕生日の奇跡117

「「「「「かんぱーーーーいっっ!!!」」」」」


お母さんと海先輩はシャンパン、
他の3人はノンアルコールのカクテルで乾杯をした。


ピンク色の液体の向こうに
優太くんの笑顔が見える。

私の視線に気づくと、
軽くグラスを上げ…微笑んだ。


大丈夫なの?


聞かなきゃいけないけど、
この時間が終わってしまいそうで怖い。


美味しい料理に
楽しい会話…

日常から離れた時間の中で
“あるはずの不安”には
無理やり目をつぶった。




それでも、やってくる。




足音が段々と近づいてくる。




待ち望んだ客と
招かれざる客の…。




「執事さーーーん!
 シャンパン注いでぇ!!!」

「はい。只今。」


先輩は、ほろ酔いになったお母さんの
すっかりお守役に・・・。

でも、


「海、嬉しそうじゃん。
 優太から、乗換完了?」

「え!?そうなの?
 先輩って…その…」

「ああ、先輩のはね、
 真性のゲイじゃないよ、きっと。」


なんだそうだ。

そういえば、
お母さんにあれこれ注文されても、
なんだか嬉しそう…。


「まぁ、
 基本、優しいんだろうね、海は。」

「うん。だと思うよ。
 今までその優しさを
 自ら作った殻で隠してたんだ。」

「それを壊したのは…」

「桃ちゃん。」

「わ、わたしっっ!?」

「そう、君。」


…私、何かしたっけ?

覚えがありませんけど(汗)


「そんなに考え込まなくても(笑)」

「そうそう。
 無自覚にしちゃってるのが桃なんだから。」


う、うーーーん…。


「何?どうしたの?
 桃ちゃん、なんでそんなに難しい顔してるの?
 愛未に苛められた?」


お母さんの新しいお酒(焼酎!?)を取りに来た先輩が
膝を折り、私を覗き込んだ。


「こら!誰が苛めただって!?」


愛未の反論する声も
聞こえないぐらい真剣に
心配してくれる。


「辛いの?
 俺に話してみれば?」

「・・・」


本当に優しい先輩…。

私がしたことなんて関係無いんだ。

こんなにたっぷりの優しい気持ちを
隠しきれるわけないんだから。


「せんぱい。ありがとう。
 私は大丈夫。」


その言葉にやっと納得して、
先輩はお母さんの元に戻っていった。




そして、
足音は近づく・・・。




私たちの知らぬ間に・・・。


 ぽちりに感謝カンゲキ雨嵐<(_ _*)>


誕生日の奇跡116

「これも、どうかと思うけど…。」


料理を取り分け、
乾杯の準備をしてるところに、
戸惑い気味に現れたのは、
執事服でビシッとキメた先輩。

スラリとした体形に
細身の黒服がとても似合っていて、


「先輩、かっこいいっっ!!!」


ウサギさんの時よりも
大きな反応をしてしまった。


「桃ちゃん、こういうの好きなの?」


ノンアルコールのカクテルを作りながら
クスッと笑う優太くん。


「ほら!ちょっと髪をかきあげて!
 そう。もっと、気だるそうに!」


愛未は、
自前のカメラで先輩を激写。


「お前、金にする気だろ?」

「さぁねぇ♪」


あの顔は…売るな。




先輩が
朝、家に来た時から
2度もお色直しをしているのは、


「海ったら、
 卵と小麦粉を思いっきり被っちゃってさぁ(笑)」


が、そもそもの原因で、
たまたま、優太くんのバイト先にあった
キグルミか執事服の
どちらを着るかの選択を迫られたらしい。


ウサギさん>執事服…?


「どうして、先輩?」

「ハメられたんだよ(怒)」


どうやら先輩は
優太くんと愛未に、


「洋子ママは無類のウサギ好き!」


と、吹き込まれたみたい。


「感激して、ギューとかチュウもあるかもよ!」


とも…。


「チュウはあったじゃん。」

「そ、それは…あったけど…」

「ん?海くん。ギュウもして欲しいの?」


ニッコリ笑顔で両手を広げるお母さんに、


「め、滅相もございません!ご主人様!」


そう、深々とお辞儀をする黒服執事さん。


「ふふっ。ノリノリじゃん。」


その姿もしっかり
愛未のカメラに収められた。


ただ…


「あんた、またひっくり返す気?」

「だね。先輩は大人しくしてて。」


と、本来の仕事と思われる御給仕の方は
全くさせて貰えませんでした(涙)


 ぽちりに感謝カンゲキ雨嵐<(_ _*)>



誕生日の奇跡115

それから、
しばらく続いた追いかけっこ。

狭い店内をぐるぐるバタバタ…。

その終焉は
先輩の体力の限界と共に訪れた。


「もぉ…(ゼィゼィ)いぃ…(ゼィゼィ)」


苦しそうに言って、
お母さんの足元に
ばたりと倒れこむ先輩。


「海くん!」


お母さんは慌てて跪き、
ウサギさんの頭をすぽんと取った。


「ばかねぇ。こんなにムキになって。」


額に滲んだ汗が痛々しい…。


「体力ないね、海。」

「がっつりインドア派だから、先輩は。」


そういう優太くんと愛未も
肩で息をしている。

もちろん私も…。

3人は呼吸を整えるべく、
椅子に腰かけた。


「かーい。大丈夫?」


愛未の言葉に
フワフワの手を横に振る先輩。

それをじっと見つめていたお母さんは、
その乱れた前髪を優しく直した。

一瞬、びくっとする先輩。

驚いた顔をお母さんに向ける。

青い顔が一気に赤くなった。


「こんな格好までしてくれて…。
 ありがとう、海くん。」


そう微笑んで前屈みに…。

長い髪が
先輩の顔にかかる。

そして…、

まだ汗が滲む額にキスを落とした。




「wow!!!」

「おおっっ!」

「きゃっっ!」


3人3様の驚きの表現が飛び出す中、
先輩はパクパクと口を動かすだけ。

声にならない声を懸命に発していた。




この日以降、
先輩の前で愛未は
ある曲を繰り返し歌うようになる。




「♪Mommy kissing Rabbit Costume last night♪」


“ママがウサギのキグルミにキスをした”


 ぽちりに感謝カンゲキ雨嵐<(_ _*)>



誕生日の奇跡114

先輩はなぜか
ウサギのキグルミを着ていた。

しかも、超かわいいピンク色の…。


「海くん、そういう趣味なの?」

「そ、そういうって…」


ウサギさん(の中身)が
すごく焦っているのがわかる。

先輩の思惑はわからないけど、
とりあえず何かフォローを!と
こっちも焦っていると…


「「ぷーーーっっ!!!!!!」」


と、優太くんと愛未が笑い出した。

それを見たウサギさんの全身が
プルプルと震え出す。


「おーーまーーーえーーーらーーー、
 だましたなぁーーーー!!!!」


お腹を抱えて笑い続けるふたりを
ポカポカと叩くウサギさん。

でも、その手はフワフワで、
戯れてるようにしか見えない。


「あはは!ごめん、ごめん、先輩!」

「かーーい!悪かったってっっ!
 ぷぷーーーっっ!!!」


ポカポカポカポカ…


だ、だめ…。

我慢出来ない…。


「ぷ…」

「桃ちゃん、笑ったねっっ(怒)!!!」


キッ!!!と私を見るウサギさん。

睨んでる?

でもぉ…、


「か、かわいい…♡」

「こらぁーーー!!!
 怒ってんの!俺はっっ!!!」


ウサギさんが右手をグーにして向かってきた。

透かさず、優太くんが
私とウサギさんの間に割り込み、


「逃げろ、桃ちゃん!」


と、手を取った。


「あはは!ウサギに捕まるなっっ!」


愛未も逃げる。

ウサギさんが追いかける。


「なぁに、これ!
 おっかしいねぇwww」


お母さんは笑う。

幸せそうに、
笑う。

だから私も笑う。

ウサギさんに追いかけられながら。


 ぽちりに感謝カンゲキ雨嵐<(_ _*)>




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